『TOSHIE』
 
 
キースさんと、その愛人で人妻の敏江(漫才師の正司敏江に似ていることから僕が勝手に命名)に、
訊いたことがある。
なぜ禁断の愛に身を捧げているのかと。
 
キースさんは長身で顔の掘りも深く、
「黙っていたら男前」、
あるいは
「何もしなければ男前」である。
ギターも上手いし、前歯だってキレイになった。
今はその歳で、しがないフリーターをやっているけど、
将来的にはいろんな恋愛の可能性もあるはず。
なのに、よくもまあ、こんな蛍光オレンジ色のスゥエットを着て、
ずかずかとガサツに登場する敏江と、
誰もうらやましがらない、
ハイ・リスク・ロー・リターンな危険な恋をしているのだろうか。
 
 
敏江曰く、「この人は何かを持っている」そうだ。
いずれ世間をあっといわせる「何か」をだ。
この賑やかなだけの、カラッポの世界で、
人々を「ぎゃふん」といわせられる力を秘めている
と、謎めいたことを言った。
 
実際に僕自身、キースさんにはいつも「ぎゃふん」といわされっぱなしだし、
おそらくキースさんに関わる人たち全員、「ぎゃふん」の連続である。
これ以上、人々を驚かせるには、重大事件を引き起こして、
射殺されることぐらいではないだろうか。
 
 
キースさん曰く、「この女の占いは当たる」そうだ。
タロット占いが趣味の敏江、彼女には「何かが見える」という。
ブラック・マジック・ウーマンかよ、敏江!
 
確かにロック「黒魔術」的なものには、
ミステリアスな関わりがないとは言い切れない。
そう考えれば、キースさんもいろいろ考えての、
ただれた恋愛関係なのかも知れない。
キースさんがバイトしているレンタルビデオ屋では、
いつもB級ホラーを上映しているくらいだし、
きっとホラー好きなんだ。
 
バンド練習中の差し入れに、
大量の「ゆで卵」をもってくるのも、
お弁当に黒胡麻で「スキ」と書いているのも、敏江にとったら、呪術的な要素があるのかも・・・。
 
つい、敏江の別な姿を想像してしまう。
深夜になると、スクリーミン・ジェイ・ホーキンスのように、
ドクロにタバコの煙を吐き出させたりしているのか。
ジョン・ザ・コンカラーの根っことか、
ゾンビ・パウダーとか、ブードゥー人形とか、わら人形に囲まれて、
ヘビやイモリや、不思議な薬品を使って、惚れ薬なんかを作っているのではないか。
キースさんに一服盛っただろ、敏江
 
いや、おいおいおいおい、ちょっと待てよ、
あるいは僕がいつも心の中で、
オマエのことをボロクソに言っているのも、
実は黒魔術の力で、
とっくに気づいているのかもしれない、
怖い、怖いぞ、敏江!
いや、呼び捨てにしてゴメンナサイ、敏江さん、
いや、違った、「敏江」も悪口だった、オーマイガッ!
 
などと、内心ちょっとビビりながら、
敏江の霊感話を聞くことにした。
 
 
 
「今日は何番の台!」
敏江はキースさんにそう言って、パチンコの台を選んでやるそうだ。
すると不思議なことに、3回に2回は「勝つ」とのことだ。
 
 
 
ん?ちょっと待って、それだけ?
・・・あほくさ。
溺れる者は藁をも掴むというが、
それぽっちを「霊感」と信じるには、
あまりにもお粗末すぎて開いた口がふさがらない。
さすがだ、キースさん!
よほどピュアな心を持っているんだね。
 
 
ちなみに僕は柔道の試合の前日、
敏江にタロットで占ってもらった
 
「日頃の練習の成果を発揮できれば、勝てる」と断言されたが、
たぶんそれは占いではない。
「大会委員長の開会のあいさつ」である。
 
試合の結果?
なんてことはない、一回戦から優勝候補と当たって、
開始数秒で瞬殺の一本負けである。
日頃の成果なんて発揮する余裕もなかったぞ、敏江!
 
 
リ:ラクレあんなんこんなん-ファイル0132.jpg
(ちなみに本物の正司敏江師匠。よく見れば可愛い)