ふたたびキースさん
 
  
ある日、キースさんの前歯が、キレイになっていた。
差し歯を入れたり、欠けたところは埋めたらしい。
滑舌は相変わらずだったが、とても男前になった。
  
キースさんにどのような変化があったのだろう。
ひょっとしたら略奪愛の挙句、
敏江と結婚でもするのではと心配になった。
 
敏江・・・ときたら、
トレードマークの蛍光オレンジ色の上下スウェットで、
ずかずかとスタジオに差し入れを持ってきたこともあった。
  
第三者にまでコールタールのようなプレッシャーを与える、
例のブラック弁当かと思いきや、
なぜか大量の「ゆで卵」を新聞紙にくるんで持ってきて、
みんなで食べて
ひとりノルマ3個分くらいあった。
 
心の中で「オマエが産んだんちゃうか!」ってツッコミを入れてしまった僕は、
「敏江の産卵シーン」という強烈なイメージのせいで、
一口も食べれなかった。
    
そもそもバンドへの差し入れが、なぜ「ゆで卵」なのか。
ガマンして食べたところで、口の中がコペコペになって、
歌えなくなってしまうのではないか。
うーん、憎っくき敏江!」(アニメ「一休さん」の将軍義満の声で)
   
  
話が脱線したけど、
キースさん本人に聞いたところ、
歯がキレイになったのには理由があった。
  
ある秋の日の夕方、
キースさんが近鉄電車の踏切を渡ろうとしたところ、
遮断機がおりて電車の通過待ちになった。
「チッ」と舌打ちをして、ジッポーのライターでマルボロに火をつける。
タバコの煙をフーっと吐き出して、踏切の向こう側を見ると、
何やら自分を睨んでいるヤツがいる。 
学ランを着たヤンキーだ。
  
あの頃、服装にこだわりを持っていたヘビメタやパンクは、
よくヤンキーのカモにされたものだ。
そして今、高校生ヤンキーがキースさんにメンチを切っている。
  
しかし高校生のメンチごときでビビる我らがキースさんではない。
キースさんは「昔はけっこうワルだった」というけど、
「だった」はないだろう、「だった」は!
「be+~ing、若さの進行形、純なハートが弾んで揺れる♪」と
柏原芳恵さんも歌っていたが、キースさんは「be ワルing」だ。
  
  
ということで、遮断機を隔てて、
高校生ヤンキーvsキース・リチャーズのガンの飛ばしあいがはじまった。
言っとくけどキースさんは怖い。
別次元の怖さだ。
高校生ヤンキーの目にも、すぐにその狂気じみた怖さが伝わったようだ。
誰だって思うはず。
こんなストリート・ファイティング・マンとは、
「関わりあいになりたくない」と。
  
メンチの切り合いは、高校生の一方的敗北
「僕は何も睨んでないよ、ちょっと視力が悪いだけ」とばかりに、
高校生はバツが悪そうに、伏し目がちになったのだが、
戦闘態勢に突入したキースさんの気が収まるわけはない
よく怪獣映画で、調子に乗りすぎた人類が怪獣の逆鱗に触れ、
手が付けられなくなる、という展開があるけど、
キースさんはまさにその悲しき怪獣である。
地底深く眠らせておけばよかったものを!
  
遮断機はもはや、福男選びの西宮神社の「赤門」。
コイツが開いた途端、壮絶な男たちの闘いがはじまるのだ。
キースさん曰く、
ヤンキー君に蹴りの一発でも入れてやろうと思ったそうです。
  
電車が過ぎ、遮断機が上がりかけた。
ロックオン完了。
キースさんはターゲットしか目に入らない
恋は盲目というが、
「もうオマエしか見えない」状態。
チョロQのように猛ダッシュで、
すでに腰が引けているヤンキー君の元へ。