リクエストにお応えし、
ボツ記事「キースさん」の続編をアップします。
<これまでのあらすじ>
高校生の僕は、楽器屋のメッセージボードで、
ローリング・ストーンズのコピーバンドのメンバー募集をした。
最初に連絡してきたのは、僕より10歳以上も年上のギタリスト、
通称「キースさん」だった。
僕はキースさんがバイトしていた小さなレンタルビデオ店にもよく足を運んだ。
店内のモニターでは、いつもB級のホラー映画が上映されていた。
たいていキースさんは、店の汚れたパイプ椅子に座って、ギターの練習をしていた。
キースさんは前歯が抜けたり欠けたりしていたので、
さ・し・す・せ・その発音が苦手だった。
また、若干の舌足らずだったので、
ら・れ・る・れ・ろも不得手ときた。
しかもコトバのイントネーションに抑揚がないので、
基本的に「何を喋っているのかよくわからない人」。
特に接客などで、明瞭に喋らなければならないときほど、
その兆候は顕著で致命的だった。
「いらっしゃい」が「ダーハイ」と聞こえたり、
「ご返却はいつですか?」という確認も、うっかりしていると、
「ダーダーダー」としか聞こえなかったりして、
ヒアリングと想像力の弱いお客さんを困らせていた。
ところがほとんどの場合、
キースさんが数回首を振って、「ニカっ」と微笑んだら、
お客さんも「こんなに歯がスカスカだったら喋りにくいだろうな」と納得し、
イマジネーションを膨らませて、
差し障りなく会話が成立するという、
なかなかハートフルな展開をみせる、そんな愉快なビデオ店。
また本物のキース・リチャーズを意識してか、
外人みたいに大げさなゼスチャーをする。
困ったり迷っりしたら、
両のこめかみを押さえて「うーん」と長く唸るし、
「さっぱり分かりません」という表現をするとき、
肩をすくめ、手のひらを持ち上げて、
最悪の滑舌で「ダダーダーダダ」である。
(どこの国の人やねん)
そんなキースさんにもなんと彼女がいた。
僕がキースさんとバンドの将来について語っていると、
上下蛍光オレンジ色のスウェットを着て、
「ちんちくりん」という表現がもっとも的を得ているような、
ショートカットで小太りの女性が、
フーフー息を切らしながらずかずか入ってきて、
空いている椅子にどっかと腰を下ろした。
どつき漫才の正司敏江みたいな女性だった。
「コレ、俺の女!」と親指を立てて、
キースさんが僕に紹介した。
「何をエラそうに!」と、ひょうきんな敏江さん(勝手に命名)。
これは何やら面白い展開が期待されるゾ。
敏江さんは夜食のお弁当を届けにきたようで、
がさがさと手提げ袋から黒いプラスチックの弁当箱を出した。
なにやら弁当箱に白い絵が描かれている。
キャラクターものだ。
良く見ると、なになに、B・a・i・k・i・n・-・k・u・n ん?
そのキャラは僕も缶ペンケースを持っていたけど、
お弁当という「食べ物」に「バイキン」とか、
お前のセンスを疑うぜ、敏江!
思わず二度見したぢゃないか!
敏江&キースはしばらくイチャイチャして、
最後には人目をはばからずチューをして、
慌ただしく敏江さんは、ドカドカと帰って行った。
一応、キースさんには社交辞令として、
「お弁当いいですね~結婚しないんですか」と訊いた。
するとキースさんは「・・・してるから」と答えた。
「あ~はい?」
「あの女、旦那持ちやで」
「え~?!」
キースさん、人妻と不倫しておりました。
頭に赤いリボンつけて、晴れ着を着せたら正司敏江みたいな女性と!
「つい、ファンに手を出してしもた」
とキースさん。
僕は頭の中がパニック、クエスチョンマークとビックリマーク。
何しろ高校生なもので、
ただれた大人の恋愛事情には免疫がなく、
純粋に少しでも面白い展開を期待した僕がバカでした。
スルーしておくべきだった。
「なあ、オレ思うんやけど、
今度のバンドは、こういうのはナシにしとこう」
キースさんはマルボロの煙をくゆらせ、僕にこう言った。
バイキンのお弁当箱には、
「ふりかけ」か「ゴマ」で、
「スキ」と文字が描かれていた。
原始人の象形文字ではなく、人妻・敏江の手によるものだ。
敏江め・・・。
他人事ながら、すごく重たい気分がした。
おいおい
まだつづきそうや~ん(≧o≦)