こちらの作品は私のオリジナル作品です。
他サイトで投稿しているものをこちらで載せています。
盗作では有りません。
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「ここら一体は、田畑しかない本当の田舎町でしてな?

南方さんは、大旦那様がお勤めの頃より贔屓にしてもろてる取り引き相手なんです」


番頭の榊原が、辺りを見回しながらそう説明する


私は、同じように見回しながら、榊原の説明を、半々に聞いていた





『………離縁、しようか?』

『…………え?』

私の肩に額を当てながら呟く若旦那の言葉に、私は固まってしまった


『ここにいて、落ち着けないなら、赤潮に戻って………過ごした方がいいと思ってな?
仮身請けの伊里早の旦那にも、再び身請けしてもらえるよう手配はとる』
『…………っ、せやけどっ!』


私は、何故か知らないが、反射的に旦那に向かって異義を立てようと、旦那の顔をまっすぐ見つめてしまった

初めてまともに見た旦那の顔は、どこか吹っ切れたような、意思の強い眼差しを持っていて、脳裏に焼き付いてしまった



『何も急にと言うわけじゃない
蘭が、やっぱりここじゃなくて、赤潮や伊里早の旦那のところにいた方が落ち着くというなら、私は……………納得して、離縁しても構わないと思うんだ』
『…………若旦那』

『もちろん、赤潮への寄付金は絶えず送り続けよう
これは、絶対守ると誓う。
存続ができないのは、同じ商い者としてつらいからな』

『……………』
私は、旦那の言葉に、無言となり、旦那を凝視する

なんでそこまでして………赤潮と私を守ろうとするのか、理解できなかった

できなかったが…………初めて、他人から縁(えにし)を切ろうと言われた瞬間でもあった…………


『………蘭、あくまでも、君優先た、このまま、こちらに残ると決めているなら、それに従うし、あちらに戻りたいというのなら、それに従う
散々君を困らせた亭主の、償いだと思ってくれていい』

本当なら、喜んで受けていいはずの離縁の申し立て…………


伊里早の旦那の所に戻ることができるまたとない機会


なのに……………






この悲しい気持ちは……………なに?






『今まで、沢山我慢して、頑張ってくれた
そんな蘭への、ご褒美でもいいな?
うん、そっちのほうがしっくりくるか…………』


旦那は、明るくそう言い放ったが、私はなんの反応も返せなかった
悲しい気持ちが、沢山出てきて、どうすればいいのかわからなくなった

無言でいると、旦那は正面から私の身体を抱きしめてきた


『蘭、蘭?
これは、ご褒美なんだ
深く考えなくていい
君の行きたいところへ…………飛び立てばいいだけなんだ…………私は、君の伴侶になれたこと、後悔はないよ?逆に感謝している』

『…………若旦那………』


旦那の名前を呼びながら、腕の中で泣いた




何故か、その時ばかりは………離れることが嫌に思ってしまったのを覚えている