こちらの作品は私のオリジナル作品です。
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「さっきの言葉は、今の旦那には言い過ぎってかい?


ふざけてんやないよ」


「「…………!!!」」


がらりと変わった口調と態度に、二人は身体を固くする


「あんたらは、旦那をかばい過ぎてるんやぼけぇ


夕蘭に恋してるだぁ?

ほんなもん、初めて合わせた時にとっくに知っとりゃあ!

せやから、泣かせたら容赦せぇへん釘さしたんや
夕蘭の事を考えてほしかったからな?

今の夕蘭にゃ、恋だの愛だの呟いたところで届かん


必要なんは、『時間』なんやで?


せやけど、見事にあの旦那は自分のとばかり気になってしまったようやな?
しかも、周りのあんさんがたも、よってたかって、あの娘に旦那を愛せ、親しめ、気にしろと、余計な事を吹き込んで……………

今のあの娘の状態が、どんだけ重体なんか、あの娘を考えてくれたら、すぐ気付くやないのか?いくらたった数ヶ月暮らした仲つってもな?」


伊里早の言葉に、2人は黙り込む

「…………旦那が大事なんはわかる

俺かて、身内のもんが悩んでおったら、力になって励ましたいわ
せやけどな?

ようけ夕蘭の話をきかんで、旦那が恋に苦しんでるからと、夕蘭ばかり責める言葉かけるんは、間違ってんやないの?


榊原さんには、話とるみたいやけど、身代わりできたから、旦那に恋せぇへんのやないで?


恋にいくまで、あの娘は気持ちに余裕がなかったんや


ぶっきらぼうに返事をするんも、あんまり話を2人でしないんも、気持ちに余裕がなかったからや


あの娘は、いつもいつも、悲しみの中にはまっておったんえ?


強い悲しみは、すぐには消されへん


周りが、その悲しみと対等になる楽しい出来事をつくらな、いつまで経っても抜け切らん」


一息つくと、伊里早は、ゆっくり身体を起こす


「………あんたらはないんか?

身近な、大切なもんがこの世を去る経験


どんなに忘れよ思うても、どんなに気にしないよう取り繕っても、目に焼き付いて離れんのや……………


相手の死顔がな?」



「「………………」」


2人は、苦痛の表情を浮かべる伊里早に、かける言葉が見つからなかった


下手に話しても、詭弁にしかきこえないと感じたから


「………ここにも、大旦那から、夕蘭の姐女朗の死については、話はあったはずや…………


その姐女朗 澄舞は、夕蘭にとったら、血のつながりはないが、本当の姉のように慕っていた人やった


夕蘭自身は、必死に隠そうとしていることやけど
なんでこないな事になったんか、この際やからはっきり教えたる
その姉はな、ここの身請けが決まった事で、本に愛した男と結ばれぬ事を知った矢先の自害
自ら………この世を去ったんや…………夕蘭になんの相談もなしにな


あんたらには関係ないかもしれん、
ただの女朗の姐が亡くなったとしか思わんかもしれん


いや、それはあたり前のことなんやけど…………


せやけどな?いくら女朗かて、人間


身近な人が亡くなったんやいうんから、少しくらいは気を利かせてもらいたかったわ……………」




伊里早は、力なくそう言い放つ


「…………伊里早様………本当に申し訳ございませんでした」


「………私からも、謝罪を………申し訳ございません……」



2人は、軽々しく考えていた自分を叱咤した



こちらの都合ばかりを押し付けて、相手の話を上辺だけ聞いて判断していた自分に……………


「…………あんさんらが謝っても仕方ないんや



一番は、自分んことしか考えんと、酒だなんやと逃げ回った………………



若旦那?

あんたや…………」


「「…………!!」」


2人は、勢いよく顔を上げて、後ろを振り向く
しかし、そこには誰もみあたらない


「いるんでしゃろ?

早ようでてきたらどうですか。」

伊里早の旦那がそう言うと、ゆっくり障子の扉が開いた