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「夕蘭」

「赤潮の旦那…………お久しゅうございます……」


赤潮に着くと、扉の前で待っていたのか、旦那は私の姿を見つけて足早にかけてくる


「早かったね、…………お前の旦那はんは?来とらんのか?」

赤潮の旦那は、左右をみ、そう言ってくる

「若旦那はんは、今日は大事なお仕事がありんす。お断りして、あちきだけできやんした」


「…………なんとまぁ………」


それを聞いた旦那は、唖然としてしまう


それを見て、私は不快な気分になる


「…………若旦那は、関係あらへん。別にいなくとも、支障はあらしまへん。それに、…………」


ゆっくり旦那に近づき、耳元に口を近付ける

『………あとで大旦那様が、時間を見てこちらに来られる言うてました。例の話は、その時になさって下さいまし』


「夕蘭っ、違う。若旦那には……「兎に角、あちきは、先に奥に入ります。また後でお話しませんか?まだお客はんがいらっしゃりますやろ?」


何か言おうとするのを、遮り早口に言い渡すと、渡り廊下に足を入れて、前に進む

「…………

夕蘭」


小さく呼ぶ声が聞こえたが、振り向かずに前に進む




「夕蘭の姐様っ!」

「李穂やないか…………」


長い渡り廊下を歩いていると、後ろから見知った声がかかり、振り向く


そこには、半年前にやってきた世話係の李穂が立っていた


「お久しぶりでやんす。元気しとりましたか?」


可愛らしい愛敬ある笑顔で言われ、ついついこちらも満面の笑みで帰してしまう


「元気ぇ?

今日は大変やろ?あちきも手伝えることありゃなんでも言うて?

力になりんすから」


「そないなこと、女将さんになった姐さんにやってもろたら、旦那に怒られてしまいます。

今回は姐さんも、お客様やき、ゆっくりしてくんし」


李穂は、頬を紅潮させながら言う

その言葉に、苦笑しつつ、私は李穂の頭を撫でる



澄舞の姐さんに、懐いたのも、このぐらいだったなと思い返す