自宅療養時、備蓄していた食品に救われた体験を語る増子芙美子さん

 女性の投稿欄「いずみ」を朗読する番組「朗読で聴くいずみ」が毎週土曜日午後9時55分から、AIR―G'(FM北海道)で放送されています。10月に朗読する4作品のあらすじと、19日放送分の投稿者のインタビューを紹介します。
■19日は札幌の増子さん作「備蓄の重要性」
 札幌市北区に住む増子芙美子(ますこ・ふみこ)さんは90歳、1人暮らし。この夏初めて新型コロナウイルスに感染した。「いつも注意していたので、どこでどううつったのか、全くわからないんですけどね」
 コロナの5類移行後は、患者が外出を控えるかどうかは個人の判断に委ねられ、国は発症翌日から5日間は外出を控えることを推奨している。増子さんは医師から「5日間は人と接触しないように」と言われたが、1人で無事に過ごせるか、不安は大きかった。
 症状はのどの違和感から始まり、次第に痛みが強まって夜あまり眠れなかった。かかりつけの内科を受診してコロナと判明。命の危険はあまり感じなかったが、のどの痛みは次第に呼吸をするのも苦しいほどになり、熱は38度を超えた。
 普段は毎日みそ汁を作り、魚や野菜を欠かさず食べる増子さん。しかし、この時はとても料理はできなかった。周囲を頼ろうにも、友人たちも高齢で、道北に住む娘夫婦には仕事がある。とりあえず台所へ行き、普段は開けない引き出しを開けてみると、カップ麺やレトルト食品、魚の缶詰など簡単に食べられるものが出てきた。「薬が『食後』だったので、とにかく何か食べなきゃ薬も飲めない。ほっとしました」。災害用の備蓄がここで生きた。
 夫が亡くなった6年前、娘夫婦から一緒に住まないかと誘われたが、増子さんはきっぱり断った。子ども家族と暮らす同世代の友人から「自分が自室に戻ったあと、居間から楽しそうな声が聞こえて寂しい時がある」など、同居ならではの悩みや複雑な思いを聞いてきたためだ。
 増子さんが理想とするのは「かわいいおばあちゃん」。寂しがったり、怒りっぽくなったりせず、いつもニコニコとおしゃれを楽しみ、若い人の親切を素直に受けて感謝していたい。それには「離れて暮らすのがお互いのため」と思い、夫と暮らした一軒家を手放して小さな中古マンションを購入。84歳での決断は周囲を驚かせた。
 「でもね、いろいろな手続きや調べものは、遠慮なく人に頼むことにしているの。私、スマホを持ってはいるけど、あまり使えないので」と増子さん。この先、もし認知症になりかけたら、施設に入るつもりだ。「その施設選びも娘夫婦にお願いしようと思っています。一緒に施設を見学して回って、最後は自分で決めるの」。かわいらしく、そしてたくましく、年を重ねている。
■19日放送
「備蓄の重要性」(9月16日掲載)
 コロナ陽性になった。のどの痛みは、呼吸すら苦しいほど。不安だったが、食品や生活用品の備蓄があり、5日間1人で頑張れた。胆振東部地震後の備えが功を奏した。災害はいつ起こるか分からない。自分でできることは用意しようと思う。
 
■5日放送
山崎(やまざき)ヨシさん(88歳・無職)=函館市
「アジサイに寄せて」(9月5日掲載)
 ケアハウスで過ごしています。昨年6月、中庭に咲くアジサイを1本、職員からもらい、亡き母にお供えさせてもらいました。アジサイは母にとって特別な花。今年は、あの時の職員がさりげなく1本渡してくれました。優しさに包まれ、日々感謝しています。
 
■12日放送
宮畑陽子(みやはた・ようこ)さん(73歳・無職)=函館市
「汗のにおい」(9月11日掲載)
 男子高校生たちとすれ違ったとき、ミントの香りがして、昔を思い出した。夫は付き合っていた頃、貧乏学生であまり風呂に入らず、野良犬が彼にしがみついたり、実家に連れていくと飼い猫が興奮したりした。あの頃の彼は確かに汗臭かった。
 
■26日放送
小笠原真耶(おがさわら・まや)さん(41歳・公務員)=伊達市
「ランドセル」(9月28日掲載)
 末期がんが見つかった父は、私の次男の小学校入学を見届けられずに亡くなった。届いたランドセルを見て「じいちゃんに見せたかった」と涙を浮かべ、ランドセルを背負った背中を仏壇に向けた次男。毎朝見送る度に父のことを思い出す。
( 市村信子 )2024年10月4日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載