サマースクールで美瑛町の地域包括ケアシステムを紹介する角和浩幸町長
美瑛町を四つの生活圏域に分け、小規模多機能居宅介護事業所などを整備したイメージ図(美瑛町提供)
要介護状態となっても住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、医療や介護、生活支援を一体的に提供する「地域包括ケアシステム」。国は構築を推進するものの、地域により差が大きいのが実情だ。その中で上川管内美瑛町は、地域の実情に合った居宅介護サービスを展開しているとして、関係者が注目。北大公共政策大学院の授業で、取り組みが紹介された。
生活圏ごとに事業所/住民も計画に参加
札幌の北大キャンパスで8月に行われた同大学院のサマースクールは、道内外の自治体職員や地方議員ら100人超が、オンラインと会場で参加した。
講師を務めた角和浩幸町長は①市街地一極集中から、生活圏域ごとにサービスを展開する体制への転換②計画段階から地域住民が深く関わった③地域活性化の一翼を担った―の3点を美瑛の特色として発表した。
総面積は677平方キロと上川管内23市町村中5番目に広い美瑛町。おおむね四つの生活圏域に分かれる。同町は①の具体化として、町内の社会福祉法人美瑛慈光会に建設補助金を出して「小規模多機能型居宅介護事業所」(小多機)を各圏域に1、2カ所ずつ設置。各地域の住民に利用してもらう体制を構築した。
小多機は、通所介護、訪問介護、短期入所の各サービスを1カ所でまかなうワンストップの機能を持ち、利用者にとって使い勝手が良いとされる。
かつて町内の介護サービス事業所は、町中心部の市街地に集中。利用者の送迎や訪問には片道30分以上を要することも珍しくなかった。そのため要介護度が低くても自宅を離れ施設入所せざるを得ないケースや、高齢化による利用者の増加が課題だった。
だが4圏域ごとの事業所が2014年までに出そろったことで、移動時間は多くの場所で15分以内へと大幅に短縮した。角和町長は「地域になじみ、よく利用されている」と胸を張った。
この体制を整えるため町は、慈光会、住民との話し合いの場となる「準備会」を各圏域に設置。②を進め、住民のニーズの把握に努めた。
19年初当選の角和町長は、町議時代に参加した準備会での模様を紹介。毎月のように会議を開き、介護福祉に限らず、地域の課題を話し合った。「小学校の統廃合で行事が減った」など、人口減や少子高齢化に起因する地域の衰退を嘆く声も出たという。そのため事業所にはビニールハウスや直売所が併設され、地域住民が共同で作業したり親子キャンプをしたりする交流拠点となり、盆踊りも久々に復活した。
さらに4圏域の一つ東部地区では、老朽化した保育所と介護事業所などの複合施設を設置する計画もある。角和町長は「一つの地域を丸ごとどう作るか。高齢化と人口減が進む中でモデルになるのではないか」と話した。
美瑛での取り組みに対し北大公共政策大学院の田中謙一教授(社会保障)は「地域の暮らしを支え合うネットワーク作りには住民の当事者意識が重要。参加を促す町や慈光会の技量も高かった」と評価した。
■チームで連携、共生の鍵 北大・田中教授
サマースクールでは田中謙一教授が、地域包括ケアと地域共生社会について解説した。
田中教授は、介護保険法の目的は尊厳の保持に向けた、自己決定に基づく自己実現を支援する自立支援であると説明。環境の変化による心身の状態悪化を招かないよう、生活の継続性を保障するケアが求められるとした。
その実現に必要なのが「地域包括ケア」であり、高齢者それぞれが抱える複合的な困り事に対応するため、個々の制度を超えてチームでケアを提供するためのネットワークだと解説。さらに子どもや障害者らに応用することで地域共生社会が実現するとした。
地域包括ケアの実現に向けた自治体の役割として「地域の困り事を探り、支える人や団体を見つけてネットワーク化する地域マネジメント、基本的な方針を提示し共有を働き掛ける規範的統合だ」と述べた。
( 山田芳祥子 )
2024年10月3日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載