札幌市内で開かれた障害平等研修で話し合う参加者とファシリテーターの一人、日置さやかさん(中央)=1日

 障害者自身が進行役となり、「障害とは何か」「障害はどこにあるのか」を考える「障害平等研修(Disability Equality Training:DET)」というプログラムがある。障害を、「聞こえない」「見えない」といった個人ができないこと、ではなく、社会の差別と排除の問題として捉える「障害の社会モデル」の視点獲得を促す。今月1日、札幌市内で開かれた一般向けの体験会を取材した。
 DETは1980年代後半の英国で、障害者差別禁止法を推進する研修として始まったプログラム。日本を含め、世界39カ国で実施されている。国内では特定NPO法人障害平等研修フォーラム(東京)が2005年に発足、普及に務めている。21年の東京五輪・パラリンピックではボランティア約8万人が受講した。
 障害当事者である進行役「ファシリテーター」が、約3時間のグループ形式のワークショップを通して対話を進める。「障害とは〇〇である。空白を埋めてみましょう」。1日の体験会では、車いすを利用するファシリテーターの石川明代さん(58)が問いかけた。30人の参加者は、班に分かれて意見を出し合う。「不自由なこと」「他の人と違うこと」-。

「障害とは何か」語りかけるファシリテーターの石川明代さん

 続いて、洋品店の前を車いすで移動する女性の絵が配られた。「障害はどこにあると思いますか」。参加者は階段や分かりづらい標識など、女性が不便だと感じそうな場所に付箋を貼って、議論を進める。
 次に、障害者が多数で、健常者が少数という架空の世界を描いた短いドラマを見せられた。健常者がタクシーや公共バスに乗車拒否され、カフェに入店を断られる。訪問先で点字資料を渡されるが読めず、公園ではじろじろ見られ、通りすがりの人から突然「偉いね」と頭をなでられる。
 ここまでで参加者は、障害者に対する自らの考えの偏りや健常者として受けている恩恵に気づく。そして改めて、障害とは何なのか、自分の考えを手元の用紙に書いていく。「多数派に合わせて作られた社会の仕組み」「想像力の欠如」-。回答の多くは、冒頭に書いた内容から変化が見られた。
 後半では、全ての人が暮らしやすい街にするための行動リストを作り発表し合った。石川さんは「みなさんは今日、障害を見抜く眼鏡を手に入れました。自分にできることを行動に移すと、社会は変わります」と締めくくった。
 参加した札幌市豊平区の高校3年生、平妃那(たいらひな)さん(17)は「自分の学校にもどんな『障害』があるか調べてみたい」と話していた。
■実施希望団体を募集
 札幌での体験会では、同市在住の鹿野牧子さん、日置さやかさん、旭川在住の臼井由紀さんの3人がファシリテーターの補助を務めた。
 3人とも身体に障害があり、特定NPO法人障害平等研修フォーラムの研修を受けている。DETを実施したい道内の企業や学校、自治体を募集している。問い合わせは鹿野さんのメール(s.ka2323f@gmail.com)へ。
 
■「加害当事者性」に気づきを 障害平等研修フォーラム・久野代表理事
 特定NPO法人障害平等研修フォーラムの代表理事、久野研二さん(57)=札幌出身=に、障害平等研修(DET)の意義と目的を聞いた。

障害学習と言うと、車いすに乗ったり目隠しをしたりといった疑似体験を思い浮かべるでしょうか。これは「機能障害」の体験です。対してDETでは、差別や排除という人権課題としての「障害」を学びます。
 これを理解するためには、自らが健常者として当たり前に享受している特権と、自分自身がそうと気づかずに障害者を差別・排除しているという「加害当事者性」に気づくことが非常に重要です。
 差別・排除の根底には、能力がある人が優れていると考える「エイブリズム(健常者主義)」という価値判断があります。
 自分の加害当事者性を突きつけられるのは気持ちの良いことではありません。DETでは居心地の悪さをあえて作りだし、それを行動に昇華させるプロセスを必ず入れています。気づきを経て社会を変える「変革の主体」になることを促しています。
( 有田麻子 )

2024年9月25日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載