「心原性脳塞栓(そくせん)症」という病気がある。心臓の中でできた血栓(血の塊)が脳に流れ、脳梗塞を起こす病気だ。脳梗塞全体の2割ほどを占め、発症すると重い後遺症を引き起こし、半数は死亡するとされる。全く前兆がないのが特徴だ。そうした脳梗塞を防ごうと、心臓を動かしたまま、血栓ができる場所を内視鏡やカテーテルで切除・閉鎖する高度・先端的治療が道内の医療機関で行われている。


■ウルフ・オオツカ法 血栓できる場所を切除
■経皮的左心耳閉鎖術 厳しい基準、高齢でも可
 2022年に保険適用となった「完全内視鏡下心房細動手術 ウルフ・オオツカ法(左心耳(さしんじ)切除/肺静脈隔離術)」と、19年に保険適用となった「経皮的左心耳閉鎖術 WATCHMAN(ウォッチマン)」。いずれも札幌心臓血管クリニック(札幌市東区)で行われている。
 心原性脳塞栓症は心房細動という不整脈を原因とすることが多い。不整脈の患者は左心房の袋状の場所「左心耳」に大きめの血栓ができやすく、それが脳に飛んで脳梗塞を起こす。高齢化もあり、心房細動の患者は増加傾向にあるといい、道内には4万人ほどの患者がいるとみられている。
 心房細動による脳梗塞の予防には、ワーファリンなどの抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を服用する必要がある。だが、長期に服用していると脳出血や消化管出血などの出血性合併症を引き起こし、服用できなくなることがある。
 藤田勉院長は「治療の対象は脳梗塞を起こす可能性が高く、抗凝固薬が飲めない人。患者の状態にもよるが、80歳以上の人はウォッチマン、以下の人はウルフ・オオツカ法が選択される」と解説する。
 日本心臓血管外科学会専門医で、心臓血管外科部長兼MICSセンター長の濵元拓(はまげんたく)医師によると、ウルフ・オオツカ法は左心耳を切除し、不整脈治療のアブレーション(カテーテルを用いて組織を焼いて治療する「焼しゃく」などを行う)を外科的に行うものだ。
 患者の状態に合わせ、胸部の4~8カ所に穴を開け、内視鏡を入れて切除と縫合(医療用ホチキス)を行う。その後、アブレーションを実施する。
 心房細動を引き起こす電気信号の異常は、左心房につながる肺静脈にあることが多いため、その周囲を焼しゃくする。手術時間は1~2時間で、入院期間は4~5日。人工心肺を使わないため、体の負担は少ない。
 濵医師は「左心耳は切っても心臓に影響はない。切除した部分は短期間で修復(内皮化)されるため、血栓ができることがなくなり、術後1カ月の経過観察を経て、薬をやめることができる」と説明する。
 一方、経皮的左心耳閉鎖術は、先端にウォッチマンと呼ばれる特殊な金属製の器具がついたカテーテルを静脈から挿入し、左心房に到達させ、ウォッチマンを膨らませ、左心耳の入り口に留置するものだ。ウォッチマンは徐々に人体組織の膜で覆われ、左心耳は閉鎖される。治療は30分ほど、入院期間は3日。
 藤田院長は「内視鏡手術より体の負担が少なく、高齢の人でも受けることができる。治療後、45日で90%、1年後までに99%の人が薬の服用をやめることができる」と話す。
 ウォッチマンは治療の適応基準がウルフ・オオツカ法と比べ厳しく、受けられないことがある。ウォッチマン治療を受けると、ウルフ・オオツカ法の手術は受けられない。
 ウルフ・オオツカ法は米国のランドール・ウルフ医師と、日本の大塚俊哉医師が考案した。大塚医師に指導を受け、手術を行っている認定医療機関は道内では札幌心臓血管クリニックだけ。ウォッチマン治療も実施医療機関は少ない。
( 荻野貴生 )

2024年9月25日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載