通信制高校で生徒急増 通学もできる!? 難関大学目指して選択も なぜいま選ばれるのか?不登校増加も背景か | NHK | WEB特集 | 教育

通信制高校の生徒がいま急増しているという。

なぜ通信制が選ばれているのか探った。

(岡山放送局記者 今村亜由美)

選ばれる通信制高校

11人に1人。
これは今年度、通信制に通う高校生の割合だ。

増加傾向が続いていて、8月に公表された文部科学省の調査の速報値では、今年度29万118人となり、割合は10年前(2014年)のおよそ1.7倍になった。

生徒数の増加だけでなく、通信制高校の数自体も右肩上がりに増えている。

こちらも今年度の速報値で、公立が79校、私立は224校、あわせて303校となり、10年前の1.3倍だ。

2003年に株式会社による設置が認められ、翌年以降も教員の数や、施設を確保する際の要件が緩和されたことで、私立の新設が相次いでいるのだ。

通信制高校ってなに?

高校での通信教育は、もともと、終戦からまもない昭和23年、高校に進学せずに就職した、いわゆる「勤労青年」が教育を受ける機会を持てるようスタートし、昭和36年に制度化された。

NHK学園も通信制高校の1つだ。

現在、Eテレとラジオ第2で放送されている「NHK高校講座」は通信制の教材として長年利用されている。

冊子や動画などの教材をもとに学習を進め、レポートを提出して採点してもらう《添削指導》、少なくとも年5日以上登校して授業を受ける《スクーリング/面接指導》、習熟度を測る《テスト》をクリアして卒業が認定される。

不登校の受け皿に

生徒数が増えている背景の1つに不登校の増加があると指摘されている。

文部科学省によると、不登校状態(学校を年間30日以上欠席)にある中学生の数は年々増え、2022年度にはおよそ19万4000人、およそ6%。

10年前のおよそ2倍だ。

特に2021年度以降は急激に増加している。

通信制の実情に詳しい早稲田大学人間科学部の森田裕介教授は、不登校を経験した子どもたちがコロナ禍を経て通信制を選んでいると話す。

早稲田大学人間科学部 森田裕介教授

早稲田大学人間科学部 森田裕介教授
「コロナ禍まではオンラインで授業を受けるという制度が知られていなかった。必ず学校に行かなければいけないと思っていた生徒たちが、別の選択肢があるということに気がついたということではないか」

通信制なのに通学

通信制とひとくちに言っても、その形はさまざまだ。

オンラインによる授業だけでなく、予備校のような建物に集まり、みんなで授業を受けたり、自習したりする。

学校施設でダンスの練習や、体が不自由な人を支える「補助犬」の訓練を体験する。

犬の訓練の授業

森田教授は、通信制が選ばれるもう1つの要因として“通学型”の普及があるという。

学校によっては週3日や週5日など通学日数が選択できるようになっていて、途中で変更することも可能だ。

毎日学校に通うわけではなく、かといってすべて通信教育でもない。

柔軟さが特徴だ。

森田教授
「同じような境遇の生徒が集まって学べるので、安心感を持てる。保護者も安心して送り出せることも後押ししている」

文部科学省が2017年度に実施した調査では、通信制のおよそ74%に通学コースが設けられていて、およそ半数の生徒が、学校や「サポート校」と呼ばれる学習を支援する教育施設などに通学している。

自由さが魅力

 
自由さが魅力

こちらの私立の通信制高校では、生徒の半数が週5日の通学コースに在籍している。

生徒たちは東京や大阪など全国のキャンパスのうち、自宅から近いところなどを選んで通学できる。

東京・新宿のキャンパスに通う3年の馬場優人さん。

中学校入学後、人間関係で悩んだことで体調を崩し、1年秋から学校に通えなくなったという。

授業を受ける馬場優人さん(左から2番目)

馬場優人さん
「自分の人生を変えたいと思っていた。将来のことを考えると、大学に行きたい。そのためには高校に通わなければならない。親の希望は全日制高校への進学だったが、そのころは学校に通えていなくて、高校も毎日通えるかわからないので通信制を選択した」

通信制は自由に時間割りを組むことができるのが特徴だ。

この学校では、1日6コマのうち前半4コマは、習熟度別に英語や数学などの学習をして、残りの2コマはコースに分かれて、それぞれの興味や関心に応じた授業を受ける。

コースは多様で、大学入試を想定したコースのほか、英語やスポーツ、犬の訓練や調理など多岐にわたる。

馬場さんは、コース別の授業にも魅力を感じている。

サッカーを専攻している馬場さん。

幼いころに始めたサッカーをモチベーションにして学校に通えるようになるのではないかと考えたのだ。

今では、教職員に支えられながら好きなことを追求できるこの学校で、将来の夢を見つけたという。

馬場優人さん
「先生たちは簡単な質問でも真剣に親身に関わってくれて、先生に会うということも学校に通う原動力になっている。自分が不登校を経験したからこそ、サッカーで不登校の子どもたちを助けたい。まずは大学で教員になるための勉強ができたらいいと思っている」

通信制高校で東大目指す

難関国立大学を目指す生徒もいる。

その1人、2年の保井孝介さんは、関西の進学校に通っていたが、自由に勉強する時間を求めてあえて1年秋に退学し、私立の通信制に入り直した。

保井孝介さん

保井孝介さん
「数学にすごく興味があって、今の時点で専門的な数学の学習を進めている。そうした中で、全日制に比べて通信制は自分で自由に時間を使えるというメリットがあって、そんな通信制が自分に合っているんじゃないかなと思ってこういう選択をした」

高校卒業に必要な単位を取得するための勉強はオンラインで済ませ、残りは、数学の勉強に費やす。

その時間、1日6時間。

高校レベルの数学は小学生のころに学習したといい、今は幾何学を中心に、大学で専門的に学ぶ内容に取り組んでいる。

志望校は東京大学。

当面の目標は数学オリンピック出場で、将来は数学の研究者を目指している。

部活動の一環として数学オリンピックで銀メダルを獲得した京都大学の学生から数学の指導を受けている。

オンラインで指導を受ける保井さん

保井孝介さん
「自分で研究をしていきたいと思っている人や難関校を目指すような人に向けたサポートが充実している。積極的に学んでいきたいという人に対しては、すごく得るものが大きい環境になっている」

 

通信制の課題は

通信制には課題も多いと文部科学省は指摘する。

その1つが、教育の質の確保だ。

通信制は、本部がある都道府県が指導・監督をすることになっていて、遠方にあるキャンパスの実態をチェックすることが難しいという。

過去には買い物をしておつりの計算をしただけで数学の履修としていたことや、教員免許がない人が添削や対面での指導をしていたケースがあった。

文部科学省は、通信制に関するガイドラインや設置基準を設けているほか、都道府県の担当者向けにキャンパスの設置状況などを確認できるウェブサイトを作り教育の質を担保できるように努めている。

また、超党派の国会議員でつくる議員連盟では、通信制高校の振興を図る法律の見直しを検討していて、不適切な運営が行われている場合の措置を規定することや適正な運営のための基本的指針の策定をすることなどを盛り込むことが議論されている。

教員と生徒の面談

さらに、卒業生の進路未定者の割合が高いことも課題だ。

昨年度・2023年度の文部科学省の調査では、全日制では4%あまりなのに対し、通信制は30%を超えている。

通信制在学中に進路についてしっかり考え、次のステップに進めるように、学校や家庭でサポートする環境を整備する必要がある。

このような課題を抱えながらも、早稲田大学人間科学部の森田教授は、通信制の生徒数は今後も増えると予想している。

その上で、高校教育のあり方が問われていると指摘する。

森田教授
「新しい学びの可能性を開いているのは最先端の通信制で、そこに期待が寄せられている。全日制がオンライン授業を取り入れていくことで、通信制という枠組み自体がなくなる可能性もある。これからは、新しい学びのやり方を取り入れた学校が生き残り、多様性が広がっていくだろう」

今年度から、対面授業が前提の全日制と定時制でも、学校に通うことが難しくなった場合は、通信教育によって卒業に必要な74単位のうち、半分近い36単位まで取得できるようになるなど、全日制と通信制の垣根は低くなっている。

子どもから大人に向かう10代後半に、どこで、どのように学ぶか。

次の世代を担う子どもたちが、それぞれにとって最適な学びを得られるようになることが望まれる。

(9月17日 おはよう日本で放送)

 

岡山放送局記者
今村 亜由美
2009年入局
ことし8月まで政治部で文部科学省担当

2024年9月17日 17時18分NHK NEWS WEBより転載