親が亡くなった後、障害のある子どもの暮らしはどうなるのか―。死亡者数が急増する多死社会の到来を前に、そんな「親なきあと問題」に不安を抱く保護者が増えています。自宅で暮らす知的障害者は全国で100万人超。子どもが安心して暮らすための資金や生活の場の確保は差し迫った課題で、札幌市内の専門事業者に寄せられる相談も急増しています。

知的障害のある娘(49)を持つ苫小牧市の90歳の女性(手前)。自分が亡くなった後の娘の生活を心配する=8月22日午後、苫小牧市

 「自分が亡くなる前に娘が自立して暮らしていける道筋をつけたい」。知的障害のある娘(49)と苫小牧市内で2人暮らしの高齢女性(90)は将来への不安を強める。
 女性は3年前に自宅で腰椎を圧迫骨折し、立ち上がることが難しくなった。娘に簡単な料理や掃除などは任せられるが、買い物の計算や他人との意思疎通が苦手。お金の管理をはじめ、冬場に水道管の凍結を防ぐための水抜きなどもできない。
 「娘はこの家で一人では暮らしていけない。市営住宅への入居手続きなど、やらなければならないことはたくさんある」。そんな思いから女性が頼ったのが、知的障害や精神障害のある子どもに残された財産を信託管理する一般社団法人ソエルテ北海道(旭川市)だった。
■残された預金や不動産 誰が管理? 
 昨年、自らが亡くなったり、認知症になったりした場合、預金や不動産などの管理を娘に代わって行う信託契約を同法人と結んだ。佐藤美幸理事(64)は「自分の死が間近に迫ってから慌ただしく準備を始める人がほとんど」と話す。

知的障害のある娘を持つ苫小牧市の90歳の女性と相談するソエルテ北海道の佐藤美幸理事(奥)=8月22日午後、苫小牧市

 厚生労働省によると、全国の知的障害者は2022年12月現在の推計で126万8千人。このうち自宅で暮らすのは114万人と初めて100万人を超えた。知的障害に対する社会の認知が広がり、国から療育手帳の交付を受ける人が増えていることが増加の要因で、道内の療育手帳取得者も23年3月末現在、6万9584人と前年同月末から1604人増えた。
■古くて新しい問題 多死社会で深刻化
 一方、高度経済成長を支えた団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる25年以降、日本は毎年150万人が死亡する多死社会に突入する。道央の事業者は「親なきあと問題は古くて新しい問題だが、多くの家族が高齢化する中、事態は深刻化している」と指摘する。
 「遺言書をつくるにはどうしたらいいか」。司法書士らでつくる「障がい者の親なきあと問題相談室ファミリア」(札幌市)には毎月、知的障害のある子どもを持つ親などからの相談が相次ぐ。相談件数は月50件前後と2年前に比べ約5倍に急増。知的・精神障害のある人に代わって後見人が財産管理を行う法定後見人制度に関する相談も多い。
■専門家「通所施設の利用や相談施設の活用を」
 ファミリアの渡辺護代表(33)は「財産が残っていなくても国の制度を活用すれば子どもは暮らしていける。あまり悲観的にならなくていい」と説明。「親との生活が長い場合は通所施設の利用など親元から離れる経験をさせた方がいい」と助言する。
 道などによると、入所施設やグループホームは不足気味で地方では空きがあっても自宅から遠いなど条件面で折り合わないケースが多い。星槎道都大の大島康雄准教授(社会福祉学)は「親なきあとの子どもが安心して暮らせる環境の確保に向け、障がい者相談支援事業所を積極的に活用すべきだ」と呼び掛けている。
2024年9月9日 14:00(9月10日 0:54更新)北海道新聞どうしん電子版より転載