俳優・井浦新も来館を熱望した映画館「御成座」を支えた夫婦とは (nhk.or.jp)

大館市に唯一ある小さな映画館はことし、再開から10周年を迎えました。
再開させたのは千葉から移住してきた夫婦。
座席200席の映画館は、著名な俳優が来訪を熱望するほどの場所になりました。
さまざまな困難に直面しながらも、この場所を守ってきた夫婦の思いに迫りました。
(大館支局 前田隆)

再開10周年を記念し初の映画祭

 

ことし8月、昭和の面影を色濃く残す大館市で唯一の映画館「御成座」で、再開10周年を記念したイベント「座・御成座映画祭」が開催されました。

「御成座」は今では珍しい絵看板や大手のシネマコンプレックスでは見られない作品が楽しめるとして映画ファンに愛されてきました。

映画祭では3週間あまりで30作品を上映し全国から1300人が訪れました。

大館市の男性
娯楽作品があったりとか変な映画があったりとか、いろんな映画がここで見られます。

東京の女性
シネコン系の映画とは全然違うミニアシアター系の映画ならではのおもしろさとか、それがすごく興味深くて新鮮に映りました。

3か月ぐらい・・・気がつけば10年

切替桂さんと切替義典さん

10年前に千葉県から移り住んで「御成座」を再開させた切替義典さんと妻の桂さんは、これほど長く続けられるとは思っていなかったといいます。

切替義典さん
よく続いたなという感じですね。よくお客さんが来続けてくれたなと、本当にうれしいです。

切替桂さん
最初に映画館を再開させた時は“3か月ぐらいやって辞めちゃっていいよ”みたいな本当に軽い感じだったのですが、月日を重ねていくうちに自分たちだけの映画館ではない感じになって辞められなくなってしまったのが正直なところです。

昭和27年に開業した「御成座」。
当時の娯楽の1つとしてにぎわいを見せましたが、客の減少などから19年前に一度閉館。
義典さんは経営する電気通信会社の事務所として「御成座」を11年前に借り受けました。

当初は知らない土地に移住しての映画館の開業に乗り気ではなかったという妻の桂さん。意外な接点に縁を感じたと言います。

切替桂さん
映画館の建立が9月9日で私たちの結婚記念日も9月9日。これは私たちは御成座に呼ばれたのかもしれないって。そういうご縁だったのだと思いましたね。

補修をするうちに地元の人から映画館の復活を期待する声も寄せられ、義典さんの映画好きもあいまって「御成座」を復活させました。

義典さんはより多くの人に御成座を知ってもらうため、映画の上映だけでなく演劇やプロレスの会場としても貸し出し、全国に多くの「御成座ファン」を生み出しました。

一方、5年前には借りている建物と土地を買い取る必要に迫られ、850万円の資金が必要となり、再び「御成座」の存続が危ぶまれる事態に直面。建物を買い取るか、さら地にして千葉に帰るか選択を迫られるなか、2人が活路を見いだしたのがクラウドファンディングでした。

10万円に込められたメッセージ

全国の「御成座ファン」から多くの支援が寄せられたなか、桂さんの心を揺さぶった1通の手紙がありました。

10万円を支援したという女性の手紙にはこう書かれていました。

本当は御成座で映画を見たいですが、高齢の自分は大館へ行くことができません。大館までの3泊4日の旅費にお小遣いなどを空想しながら、このぐらいかなと思い支援しました。

切替桂さん
そのときは本当に辞めようかなと思う時が何回もあったんですけど、そのたびにこの手紙を思い出して頑張ろうと。糧になる宝物の1つです。

支援者の数は1000人を超え、資金は目標を大きく上回る1200万円あまりに。切替さんたちは「御成座」を買い取り、廃館は免れました。

「ずっと来たかった」俳優の思い

こうして迎えることができた再開10年を祝う映画祭初日。
仕事で来られない義典さんに代わり、桂さんが感謝のことばを述べました。

切替桂さん
本当に感謝しかないんですけど、きょう初めて来た方は、きょうを機会に御成座を知ってまた何かの機会に来てもらえたらうれしいです。本当に10年ありがとうございました。

この日は、上映した作品の監督や主演俳優も舞台あいさつに駆けつけました。

なかでも、ひときわ「御成座」への熱い思い寄せたのが俳優の井浦新さんでした。

「御成座」の名物の1つである手描きの絵看板に自身が出演する映画も絵看板になっていることを知り、訪れる機会をずっとうかがっていました。

井浦新さん
やっと御成座に来ることができました。今まで御成座でたくさん僕が参加した作品を上映してくださいました。そして、手描きの看板も描いてくださっていたので、いつか必ず御成座で映画を直接、皆様に届けに来る日をずっと夢見ていました。

映画を制作する側にとっても、大手の劇場では上映されない作品を扱う「御成座」は貴重な存在と口をそろえます。

井上淳一監督
もし御成座さんがなかったら、ここ秋田県ではわれわれの映画は全く誰にも届かないまま終わってしまう。僕たちは、御成座さんのおかげでお客さんと橋をかけてもらっている。

ずっとこの場所で

多くの「御成座ファン」やスタッフに支えられて迎えた10年の節目。切替さんは、みんなの思いが詰まったこの場所を守り続けたいと考えています。

切替桂さん
支援者の1000人近くの人の思いが詰まった映画館になったし、自分はその応援に応えなきゃいけないと罰が当たると思いましたね。あとやっぱり200席を普通の興業で満席にしたい。

切替義典さん
まだまだ映写機の修理とか、これから先も経費がかかるものもあるから、そのつど壁にぶつかりますけど、なんとか乗り越えていきながら、見に来てくれるお客さんと映画の関係者の人たちも喜んでくれるような映画館にどんどんしていきたい。

(この記事は、2024年8月29日放送の「ニュースこまち」でお伝えした内容を元に執筆しました)

2024年9月2日WEBこまちより転載