【北見】深刻な財政難を背景に、北見市が「長寿祝い金制度」を中心とした敬老事業を3年後にほぼ全廃するなどの見直し案を打ち出している。年齢に応じた3回の祝い金と100歳以上への祝い品を贈る制度で、道内主要市では極めて手厚く、照準を定めた。7千万円以上の削減効果を見込むが、物価高で負担が増す中、高齢者の反発の声は強く、市の目算通り進むかは不透明だ。
 「ほかに削る部分があると思う。祝い金を楽しみにする高齢者の存在を忘れないで」。来年に祝い金3万円の対象となる市内の無職男性(86)は見直し案に憤る。
 長寿祝い金制度は旧北見市が2004年にスタートし、06年の1市3町による合併以降も踏襲してきた。現在、数え年で77歳に1万円、88歳に3万円、99歳に5万円の祝い金を贈呈。100歳以上に祝い品を毎年贈っている。計3回の祝い金は道内の10万人以上の市で最多だ。23年度の対象者は計3029人、費用は5190万円。高齢化の進行により、19年度比で約750万円増と年々膨らんでいる。


 さらに毎年9月、数え年77歳以上を対象に敬老会を実施。花束など記念品を贈り、23年度の費用は2225万円かかった。長寿祝い金制度と合わせ、敬老事業費は総額7415万円に及ぶ。
 市が敬老事業見直しにかじを切ったのは、財政難が理由だ。2月策定の中期財政計画では、人件費や扶助費の増加に加え、各種基金が底をつき、26年度以降に毎年30億円規模の財源不足となる見通し。大規模な経費削減策が必要で、総事業費12億円の図書館新築計画のゼロベースでの見直しや非正規公務員の大幅削減も検討している。
 市は中期財政計画策定に先立つ1月、市社会福祉審議会に敬老事業見直しを諮問。25年度以降、段階的に祝い金を廃止し、27年度に全廃して祝い品の対象年齢も100歳に絞るなど複数の改正案を示した。審議会の議論では敬老会を他のイベントと統合する案も浮上。27年度に23年度比で最大約7320万円の削減効果を見込んでいる。
 廃止だけでは「高齢者切り捨て」との批判が高まる可能性があり、市は削減した敬老事業費の一部を充て、高齢者や障害者のニーズを踏まえた交通福祉サービスの拡充を図る考え。10月にも答申を受ける予定だ。

祝い金を巡っては、道内自治体で廃止や規模縮小が相次ぐ。苫小牧市は昨年度、100歳を迎えた市民に10万円を贈る制度を1万円相当の祝い品へ変更した。札幌市、函館市、釧路市、江別市、小樽市も制度がないか、すでに廃止している。
 辻直孝市長は7月の記者会見で、「少子高齢化により財政負担の増大が懸念される」と敬老事業見直しの必要性を強調した。ただ、審議会のある委員は「市民の反発が予想される」と指摘。市議会内にも祝い金全廃に慎重な声があり、想定通り進むかは見通せない。
 関東学院大の牧瀬稔教授(行政学)は「平均寿命の上昇などを踏まえて時代に合った制度に変えていくことは必要」と指摘。その上で「パブリックコメントの実施はもちろん、北見市内の全4自治区ごとに説明会を行うなど丁寧に理解を求めていくことが大切だ」と話している。

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敬老事業の見直しの必要性について言及する辻直孝北見市長=7月11日、北見市役所

2024年8月31日 22:20(8月31日 23:20更新)北海道新聞どうしん電子版より転載