七飯町社協に所属するヘルパー。60代以上が大半を占める
 介護業界の人手確保に向け、学校法人北斗文化学園(室蘭)が今秋にも海外で介護資格の講座開設に乗り出す。道内の現場は外国人なしでのサービスの維持が困難な状況になりつつあり、特に訪問介護は70歳を超えた高齢のヘルパーが今も現役で働くケースが珍しくない。国際社会の人材獲得競争が厳しさを増す中、同学園の試みは道内に介護の担い手が定着するきっかけとなるのか。
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 「既に介護難民が出ている」。渡島管内七飯町の町社会福祉協議会訪問介護課の岩田志乃課長は窮状を訴える。
 七飯町社協は町内全域から利用者を受け入れてきたが、約5年前から郊外の訪問介護の利用は断っている。ヘルパーが足りなくなったからだ。
 20年前に50人いた社協のヘルパーは現在20人。このうち15人は60歳以上で、最高齢は77歳だ。ベテランの原田恵利子さん(69)は「あと5年は頑張る。若い人もいないしね」と語る。
■道内2万人不足
 介護業界の人手不足は深刻だ。厚生労働省によると、道内の介護職員の不足数は2026年度に約2万人、40年度に約5万6千人に達する見込み。特にヘルパーが高齢者と自宅で一対一となる訪問介護はほかの職員の目が届きにくく、「ハラスメントのリスクが高い」(道内の業界関係者)などの理由で敬遠されがちという。
 政府は早ければ来年度にも特定技能「介護」の在留資格を持つ外国人が訪問サービスに従事できるよう、要件を緩和する方針。札幌市内の社会福祉法人幹部は「訪問介護の人手不足緩和につながるだろう」と期待する。
 ただ国際社会の人材の奪い合いは激しさを増している。円安の影響で日本は外国人にとって「稼げる国」ではなくなり、北海道の人気はとりわけ低い。「暖かい地域や待遇の良い都市部での勤務を望む人が多い」(道北の社会福祉法人幹部)ためという。
 加えて、これまでの日本の外国人技能実習制度は「人権侵害の温床」と各国からの批判にさらされてきた経緯があり、道内で介護人材の受け入れを拡大していくには労働環境や処遇の改善が欠かせない。
 北斗文化学園がミャンマーで進める人材育成事業は、外国人の待遇を改善して人材を呼び込み、道内への定着を図る狙いもある。
 政府が要件を緩和する来年度以降、外国人が訪問介護に従事するには公的資格「介護職員初任者研修」の取得が必要となる。同学園の講座を受講した外国人は日本での就職前に資格を取得でき、現場実習も重ねる。即戦力として道内事業所に送り出されるため、給与の積み増しが期待できるという。
 同学園は事業所に受講費用などの負担を求め、外国人の負担軽減につなげることも視野に入れる。北海道福祉教育専門学校の沢田乃基(さきもと)校長は「質の高い介護人材の育成を目指したい」と話す。
■経費と教育 重荷
 一方、北海道ホームヘルプサービス協議会の会長も務める岩田課長は、地方の訪問介護事業所は小規模なところが多く「受け入れ費用や教育する時間がない」と指摘。「外国人を受け入れられるのは資金的に余裕のある大手事業所などに限られる」とみる。
 介護事業所の運営に詳しい日本医療大の忍正人准教授は「介護人材の不足はもはや『国難』と言えるレベルにあり、外国人材の受け入れは今後も加速させる必要がある」と説明する一方、言葉の壁や文化の違いもあり、訪問介護の現場で外国人を受け入れるのは容易ではないとみる。「政府と自治体が外国人を受け入れる事業所の人件費を負担するなどの支援も必要になる」と訴える。2024年8月30日 18:53(8月31日 10:19更新)北海道新聞どうしん電子版より転載