「私って恥ずかしいな」と反省する出来事があったので、聞いてほしい。
 私のいる穂別で「こども食堂」が始まった。週に1回、いろいろな年代の女性たちが集まって手づくり料理を振る舞う。子どもは無料、大人は300円で本格的な中華料理やパスタが味わえるので、いつも大にぎわいだ。
 ある週、診療が終わってから出かけた私は、受け付けをしている人に1万円札を出して、そっと伝えた。
 「おつりは寄付します。お手伝いできないので、せめて食材の一部にあててください」
 受付係の人が驚いてキッチンに報告すると、リーダーの女性が笑顔で出てきた。
 「先生、だいじょうぶ。食材はほとんど、地元の農家さんたちから無料でいただいているから、あまりお金はかかってないの。食べに来てもらって、この料金箱に300円入れてくれるのが、私たちはいちばんうれしいのよ」
 私は「わかりました」と言ってお札をしまって300円を箱に入れ、夏野菜がたっぷり入ったキーマカレーとデザートのスイカを味わったのだった。
 もちろん「なんでもお金で解決できる」というつもりではなかったが、心のどこかで「きっとお金も必要だろうな」と考えていたかもしれない。ところが、子どもたちのために精いっぱいがんばる女性たちは、「みんなが笑顔で食べてくれることがいちばん大切」と思っている。そして、地元の農家なども「これ持っていって」と快く食材を提供してくれているのだ。そこに「お金」というものはいっさいかかわっていない。
 もちろん、生きていく上でお金は欠かせない。でも、お金がなくてもできることやお金より大切なものはたくさんある。私はそれを忘れていたのだ。
 来週もまた、300円持って食べに行こう。そしていつか、皿洗いくらい手伝えるようになりたいな。(かやま・りか 精神科医、総合診療医)

2024年7月20日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載