メイビスデザインの社員(左)から半導体設計について学ぶ旭川高専の学生

 次世代半導体製造のラピダス(東京)の千歳進出で理系人材の不足が注目される中、半導体関連企業による道内4校の高等専門学校(高専)の授業への協力が本格化してきた。採用増を目指す企業にとって自社技術を伝えつつ学生と接点を持てるのは利点で、昨秋までゼロだった協力企業は現在7社となり、今後も増える見通し。理系人材の争奪戦は激しいだけに、半導体に関心を持つ若者を増やしつつ、北海道での就職を後押しする取り組みも求められている。
 「皆さんが学んでいる微分積分は半導体や人工知能(AI)の設計に役立ちます」。6月28日に旭川高専であった集積回路設計の授業。半導体設計のメイビスデザイン(熊本)の社員が、教壇から生徒に語りかけた。
 授業は全15回で、同社は6回分を対面とオンラインで受け持つ。この日は同社のAIを組み込んだ半導体を持ち込み、目の画像だけで個人を判別するシステムなどを紹介。参加した生産システム工学専攻1年の西嶋勘太さん(20)は「詳しく学べて楽しい。研究に生かしたい」と話した。
 北海道経済産業局など産学官でつくる北海道半導体人材育成等推進協議会の推計よると、道内の半導体関連企業の採用希望数は2030年度に約630人となり、23年度実績の約3倍になる。

世界をリードした日本の半導体産業は00年代以降、国際競争力が低下し「冬の時代」が続いた。メイビスデザインの池田浩司社長は「高度な半導体設計を担える人材は絶滅危惧種」と懸念。ものづくりの魅力を授業で伝え、将来の戦力となる人材を育てたい考えだ。
 半導体産業は研究開発や回路設計だけでなく、現場での生産技術や品質管理など幅広い人材を必要とする。旭川と釧路の両高専は昨秋、半導体の授業を新たに開講。苫小牧、函館を加えた道内4高専は1月に「半導体人材育成連携推進室」を立ち上げ、協力体制を整えた。
 この動きに企業は呼応。アムコー・テクノロジー・ジャパン(東京)も1月、函館工場の社員が旭川高専で、半導体を最終製品として組み立てる「後工程」の授業を行った。他高専でも同様の授業を担当する。昨年始めたインターンシップには、高専から参加があった。授業も自社の仕事を伝える好機ととらえる。
 電子部品製造大手のミネベアミツミ(長野)は昨年、子会社のミツミ電機千歳事業所で生産する半導体の製造工程を紹介する映像を高専に提供。出前授業のほか、苫小牧高専の学生による工場見学も予定している。同社は「授業を受け持つことで社員が学ぶことも多い。自社の人材育成につながる」と期待する。
 半導体産業の強化は目下、事実上の「国策」となっている。業界団体の電子情報技術産業協会(東京)は「国内主要8社だけで今後10年間で4万人規模の人材が新たに必要」とする。米国も30年に半導体人材が6万7千人不足するとの調査もあり、人材獲得競争が繰り広げられている。
 同推進室によると、協力を希望する企業は相次いでおり、授業を増やすなど産学連携を加速する考え。篁(たかむら)耕司室長は「道内で半導体がこれまで注目されたことはない。半導体産業の機運醸成や北海道の経済発展に貢献したい」と話す。道内の半導体関連企業で働く利点をどう打ち出せるか、高専の授業の枠にとどまらない官民の知恵も問われそうだ。

2024年7月12日 18:30(7月13日 14:44更新)北海道新聞どうしん電子版より転載