諸外国に比べ、低い水準が続く日本の女性管理職割合。政府は「2020年代早期に30%程度」を目標とするが、公務員、民間企業ともに目標には達していない。要因の一つと指摘されるのが、昇進適齢期と、育児に手の掛かる時期が重なることだ。「子どもとの時間を犠牲にして、昇進を目指す意味はあるのか」-。そんな不安や迷いから、昇進意欲を失う女性もいる。札幌市役所の内部では、育児中の女性職員らの不安を軽減し、昇任を励ます職員同士のネットワークが生まれている。
■悩み聞き励まし、勉強法を助言
 「これまで受けた係長試験は精神的につらかったけど、今回は仲間と励まし合い、最後まで前向きに頑張れた。とても心強かった」。札幌市の管理職への第一歩となる係長試験に昨秋、7回目の挑戦で合格した東区保険年金課保険係長の村上喜代さん(41)は振り返る。
 係長試験は年1回、秋に行われ、入庁8年目以降の職員が受験可能。地方自治法などの筆記試験や面接に、人事評価を加味して合否が決まる。倍率14.0倍(23年度)の難関だ。
 村上さんは受験を始めた当初、毎朝4時前に起きて勉強した。土日は同じく係長試験を目指す市職員の夫とともに、2人の子を水族館や動物園に連れて行き、交代で休憩室で参考書に目を通した。ハードな日々が数年続くうち、強い倦怠(けんたい)感に襲われるようになった。
 「もっとゆったりした生活をした方がいいのかもしれない」と思い、勉強のペースを落とした。過去に育休を2回取り、復帰後も保育園からの呼び出しに対応しやすいよう、区役所勤務を希望してきた。本庁で予算編成や議会対応など基幹的業務をこなす同期たちと経験の差が広がるのを感じ、「試験に受かったとしても、私には係長職をこなせないかもしれない」と不安に思い、意欲が徐々に薄れたという。
 市の係長職以上の役職者に占める女性割合は今年4月時点で17・8%。係長試験の受験資格のある人に対する受験者の割合(23年度)は、男性71・3%に対し、女性は28・3%と半分以下にとどまっている。
 村上さんのような女性職員らを支えようと、子育て中の札幌市職員でつくるグループ「おやまな部」は昨春、「係長試験勉強支援グループ」を立ち上げた。受験希望者19人と、サポート役の係長ら役職者7人が参加。それぞれの悩みや課題を洗い出し、合格者の体験談や、効率的な勉強法などの情報を共有した。役職者は「育児経験も含めて、一般的な市民感覚を持つ人が政策決定の場に必要。尻込みせず頑張って」などと励ました。人事評価の元担当者による講演会も開き、「上司は育児中の部下に対し、昇任を勧めるか迷う場合がある。昇任を希望していることを、自己申告書に書き続けて」と助言した。
 グループからは昨秋、3人が合格した。村上さんは「グループに参加して、『私にも係長ができるかもしれない』と思うようになった」と話す。別の女性職員(44)は、昨秋初めて係長試験に挑戦した。「これまで子育て中の女性係長を見たことがなく、受験は全く頭になかった」が、同世代の女性たちが係長職を「楽しい」と語るのを聞き、意欲を持った。昨年は不合格だったが、今年は問題集をさらに増やして受験に備えている。
 グループのサポートメンバーでもある札幌市男女共同参画課の石崎明日香推進係長(44)は「女性が管理職に上がるには仲間が必要」とネットワークの大切さを強調する。男性には「オールド・ボーイズ・ネットワーク」と呼ばれる、飲み会や喫煙部屋で自然に培われる人間関係があり、昇進をイメージしやすいが、女性にはそれがなく、昇進への意欲を持ちにくいという。
 おやまな部では、課長職以上への昇任を視野に、女性係長職同士の交流も始めた。「年上の男性部下にどう指示するか」など、共通の関心事について語り合い、情報交換している。石崎推進係長は「ネットワークは仕事上でも役立つ。今後は育児中の職員に限らず、取り組みを広げていきたい」と話す。
 内閣府によると、道内179市町村の女性管理職(課長相当職以上)の割合は23年4月時点で14.7%。全国平均を2.9ポイント下回る。道内企業では昨年度の帝国データバンクの調査で8.0%と、こちらも全国平均より1・8ポイント低い。
 北大法学研究科の馬場香織准教授(比較政治学)は「係長職や管理職という責任ある仕事にチャレンジするには、身近な人から背中を押してもらうことが重要になる。民間にも同様に、当事者同士がつながり、情報共有する取り組みが広がるのが望ましい」と話している。

2024年7月5日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載