市町村にはできない施策を実行し、支えるという役割を負う道庁。胆振管内むかわ町の町国保穂別診療所の副所長として、地域医療を支え、まちづくりにも関わる香山さんは、道庁をどう見ているのだろうか。
 ――医師や看護師など地域医療の担い手不足は北海道の深刻な課題の一つです。
 「穂別診療所でも看護師不足が常態化しており、常勤医師の確保も綱渡り状態です。昨年末から3カ月ほど看護師の不足で、入院患者を受け入れられなくなりました。道内は医療機関同士が50、60キロも離れていることも少なくなく、患者に『別の病院にかかってください』とは簡単に言えません」

――医師や看護師の確保や養成について、道庁にどのような役割を期待しますか。
 「地域医療に携わりたいという医師や看護師などは全国にいます。ただ、『スキル以上の仕事を求められる』『一度足を踏み入れたら抜け出せない』といった印象を持ち、二の足を踏んでいる人が多い。道庁には、道外からこうした人たちを呼び込むことに汗をかいてほしいですね」
 ――具体的には。
 「例えばまちづくりに関わってもらう、こんな趣味ができるといった医療プラスアルファのライフスタイルを提案してはどうでしょうか。2年限定や、2人で1カ月交代で診療するといったゆるやかな仕組みも考えてほしい。私自身、一人一人の患者と継続的に付き合える今の仕事には、医師としてやりがいを感じています」
 香山さんが穂別診療所に勤めることを決めたのは、恐竜が好きで、穂別地区でカムイサウルス・ジャポニクス(通称・むかわ竜)の化石が発掘されたためだ。一部を展示する町立穂別博物館の整備に関する町民会議に参加している。
 ――医療にとどまらず、まちづくりにも関わっていますね。
 「住民の皆さんは『自分たちの町はこうあってほしい』とか『私はこうして生きていきたい』と本当によく考えています。行政が中央からコンサルタントを連れてきて、住民の代わりに物事を決めてしまうのは言語道断です。行政は住民の意見を聞き、ファシリテーション(議論の活性化)の役割を果たすことが重要だと思います」
 ――道庁は市町村とどのように向き合うといいでしょうか。
 「穂別では、北大総合博物館の小林快次教授が町立穂別博物館を中心に、まちづくりによく関わっています。町内だけで進めていると『この方向でいいのか』と悩む時がありますが、小林教授は、外部の視点をもたらし、自信を与えてくれています。道庁には道外の事例を紹介するなど、市町村に助言し、後方支援する役割を果たしてもらいたいですね」
 就任から5年を迎えた鈴木直道知事。北電泊原発の再稼働や、高レベル放射性廃棄物「核のごみ」の最終処分場選定など複雑な問題を抱える。香山さんは知事の発信力に期待しているという。
 ――住民の賛否が割れる問題で、鈴木知事は自治体や道民にどう対応すべきでしょうか。
 「住民はメディアの情報だけで賛成、反対と言っているのではなく、日々生きる中で意見を持っています。まさに生活と地続きの問題です。ものすごく大変な作業ですが、住民の声をおろそかにせず、つぶさにすくい上げてほしいですね」
 ――鈴木知事をどう評価していますか。
 「新型コロナの流行初期に独自の緊急事態宣言を発した知事を見て、『責任を取ってでもやらなきゃいけないことがある』という決意を感じました。北海道にはまだまだ希望や可能性があります。知事には自然や食以外にも北海道の魅力や可能性を全国に発信してほしいですね」

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地域医療について話すむかわ町穂別診療所の香山リカ副所長(植村佳弘撮影)

 <略歴>かやま・りか(本名・中塚尚子) 1960年、札幌市生まれ。東京医科大卒業。東京で精神科医として臨床を行いながら、立教大教授などを経て2022年4月から胆振管内むかわ町の町国保穂別診療所副所長。23年4月から北洋大客員教授を兼任。香山リカのペンネームで執筆活動も続けている。

2024年7月2日 0:00(7月2日 0:53更新)北海道新聞どうしん電子版より転載