就任から5年が経過し、道民からの支持率が高い鈴木直道知事。札幌出身で、財務省官僚としての経験もある山口さんの目には、鈴木道政はどう映っているのだろうか。
 ――鈴木知事をどう評価しますか。
 「鈴木知事は『感情の並走者』。道民の気持ちをくみ取り、寄り添って走る人です。コロナ禍では独自の緊急事態宣言を出し、全国の注目を集めました。鈴木道政というのは、道民感情をふわりと吸い上げるのが特徴だと思います」

―支持の理由は人柄やイメージが最多です。
 「ふわりとした好感度に支えられ、それを大事にしていると感じます。一方で、嫌われることを恐れていては人口減など厳しい問題を進められません。強烈なリーダーシップを発揮し、多少の批判や反対を押し返してでも施策に取り組む覚悟が必要です」
 ――リーダーシップをどう発揮するべきですか。
 「鈴木知事は菅義偉前首相ら中央との強いパイプを持ちます。強みがあるなら生かし、国の予算を獲得したり、大規模事業を誘致したりすればいい。ただし、北海道の進む道について明確な目標を持ち、なぜ北海道がこの事業をやらなければならないかを具体的に示すべきだと思います」
 2000年施行の地方分権一括法により、国と自治体の関係は「上下」から「対等」と位置付けられた。道の権限や財源は縮小。存在感は低下した。
 ――道庁が存在感を発揮するには何をするべきですか。
 「財政力指数(自主財源を確保する力を示す数値)による総務省の分類(22年度)で、北海道は東京都を除く46道府県のうち、中位層のCグループ(21~29番目)に位置します。決して財源が豊かとは言えませんが、全国の中で極端に財政状況が悪いわけでもない。観光や農業、自然エネルギーなど他の都府県にない特異な強みを生かし、本州を超えて世界に発信していく施策を打ち出すのは十分可能なはずです」
 ――道内は全国でも人口減少が顕著です。道庁が取り組むべき打開策は。
 「国内の人口を都道府県で取り合っていても限界があります。人口減を本気で克服するなら、海外から取り込むのも現実的な選択肢です」
 ――具体的には。
 「開拓の歴史を持つ北海道には、『移民国家』としてのDNAがあります。リベラルな思想を持つ人々が多い地域でもあり、国籍や性別を問わず、多様な家族を受け入れることは世界に発信できる強みです。特区の申請など大胆な施策を全国に先駆けてやってみてもよいのではないでしょうか」
 ――道庁は次世代半導体製造業「ラピダス」の千歳市進出を契機に、関連産業の経済効果を全道に波及させる考えです。
 「広大な北海道全体に効果を波及させると言っても、現実的ではないだろうというのが本音です。そもそも何を波及させるのか。関連産業を各地に誘致するのでしょうか。地に足がつかない印象を受けます。道央圏に集積した半導体関連企業から得た道税収入を全道に再配分するなどの具体的な『全道波及』のプランを示すべきです」
 道庁内では若手の離職が止まらない。2022年度に退職した職員206人のうち、39歳以下が8割を占めており、組織の活力低下が懸念されている。
 ――職員の働きがいや、質を高める手だてはありますか。
 「年齢に関係なく、実力を的確に評価する仕組みが重要です。若手に成功体験を積ませることが、やりがいの向上につながります。北海道独自の視点を持つような教育活動を充実させることも大事です。年月はかかりますが、道職員として働く動機や誇りになり得るでしょう」
 ――働く魅力を伝える必要もあります。
 「自分たちの働きぶりを絶えず発信し、魅力ある職場を知ってもらうべきです。道民も知事や道職員が失言、失敗をしたとしてもただ批判一辺倒になるのではなく、ある程度の寛容性を持って『道民が育てていく』という視点が大切になるのかもしれません」(聞き手・佐藤諒一)


  <略歴>やまぐち・まゆ 1983年鈴木直道知事や道庁の評価と課題を語る山口真由氏

札幌市生まれ。東大法学部卒業。2006年に財務省入省。08年に退官後、15年まで弁護士として勤務。20年東大大学院修了。21年から現職。テレビ番組のコメンテーターなど幅広く活動。40歳。

2024年6月30日 20:00(7月1日 6:57更新)北海道新聞どうしん電子版より転載