権限や財源が縮小し存在感が低下する中、道庁は市町村を支えるという役割を果たすために何をすべきなのか。連載「北海道庁のリアル」第3部では、北海道ゆかりの各界の専門家や知事経験者に道庁と北海道の進むべき道を聞いた。(6回連載します)


 連載では、JR北海道が存続を前提に見直しを進める赤字8区間(通称・黄色線区)を例に、本来は深く関与しなければいけない立場の道庁を、市町村があえて排除する「道庁外し」を紹介した。
 ―道庁が置かれている現状をどうみますか。
 「日本の政治そのものが『個別課題対応型』になってしまい、大きな構想やビジョンが見えなくなっています。市町村が鉄路の存続など個別の課題に対応するだけなら、中央と直結した方がいいという考えが出てくるのは当たり前です」
 ―道庁が存在感を発揮し、市町村の信頼を取り戻すにはどのような取り組みが求められますか。
 「北海道に欠けているのは、未来を見据えた経済・産業政策への構想力です。例えば、北海道の医療・防災におけるレジリエンス(困難を乗り越え、回復する力)をどう考えるのか。未来の構想や戦略を示し、時には国とも闘う緊張感を生み出せば、市町村も道庁に向き合わざるを得なくなるでしょう」

 

寺島さんは、具体的な実例として、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡る鈴木直道知事の姿勢を挙げる。
 
 ―鈴木知事は、後志管内寿都町と神恵内村で行われている全国初の文献調査が概要調査に移行することについて、繰り返し「反対」の姿勢を示し、「札束で頰をはたくやり方だ」と国を批判しています。
 「反対の姿勢を取るというのは一つの意味を感じますが、私に言わせれば、反対している根拠が弱い。『北海道はこういう方向を目指す』という総合エネルギー戦略を示した上での主張を展開すべきでしょう。再生可能エネルギーを重視するなら、泊原発を含め、旧来の軽水炉原発をどう位置付けるのかを示し、政府と向き合う姿を見せることが道庁への信頼と期待を生むのです」

道庁に対し「大きな構想や戦略を示し、時には国とも戦う緊張感を生み出す必要がある」と話す寺島氏(玉田順一撮影)

■国依存脱却し発想力を
 次世代半導体の量産を目指すラピダス(東京)が千歳市に進出し、脱炭素化と経済成長の両立を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)投資を促す「金融・資産運用特区」に道・札幌市が決まった。
 
 ―鈴木直道知事は、ラピダス進出の効果を全道に波及させることも目標に掲げています。
 「波及効果を期待する前に、ラピダス進出を軌道に乗せるには、水と電気の安定確保に向けた調整力が必要になります。この調整力を働かすことができなければ、このプロジェクトの成功は難しくなるでしょう」
 ―鈴木知事は、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す「ゼロカーボン北海道」を看板政策に掲げています。
 「『キャッチフレーズ行政』を超えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGXなどの流行語に飛びつく前に、具体的に何をするのかが重要です。『特区に指定されておめでとう』ではなく、道民にプラスになるプロジェクトを実装しなければ意味がありません」
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年の北海道の人口は20年と比べて26.9%減の382万人、札幌市は11.5%減の174万人となる。
 
 ―人口減が避けられない北海道が目指すべきことは何でしょうか。
 「思い切って視野を外に向けてみましょう。暗いシナリオを突き破る可能性があるとすれば、アジアのダイナミズムをどう北海道に取り込み、産業基盤を構築していくかです。世界最大の市場をつなぐ米中貿易の物流軸は、苫小牧沖を通る日本海航路です。苫小牧の港湾と新千歳空港をリンクさせ、産業構造を創造すれば、この地域は日本全体にとって重要な場所となり、苫小牧東部地域(苫東)開発の意味もそこにあります」
 ―苫東では経営諮問委員会の委員長を務めていますね。デジタル時代の産業立地を前進させるには、どうしたら良いでしょうか。
 「高学歴の専門技術者が住むことを想定したアメニティー(快適な環境)が必要です。ホテル、レストランから学校、文化施設に至るまで質の高い生活基盤が求められます。『千歳から苫小牧、札幌にかけてのゾーンで人生を送ろう』と思う人が世界から出てくるような都市づくりに向け、発想力を持ってほしいですね」
 ―ウクライナ侵攻後、ロシアとの向き合い方も難しくなりました。
 「北海道にとってロシアは宿命の存在。北方領土問題を含め避けられない接点があります。現実問題として北海道の電力はサハリンからの液化天然ガス(LNG)に大きく依存しています。北海道は人道分野などでコミュニケートするなど、『地域外交』という観点からロシアを見直す部分も必要でしょう」
 日本の食料自給率がカロリーベースで38%なのに対し、北海道は200%前後で推移。寺島さんは、北海道には食料生産にとどまらない取り組みが必要という。
 
 ―食産業の重要性を訴えていますね。
 「国内総生産(GDP)は付加価値の総和です。北海道の食料自給率は他の都府県を圧倒して1位。その食材にどういう付加価値を付けていくか。生産、加工、流通、調理のサイクルについてしっかりした戦略構想を持ち、知恵と努力が必要になります」
 ―道庁がリードしていくのでしょうか。
 「北海道は以前から中央依存の傾向が強く、国からの補助金、助成金という発想になりがちです。経済人も含め、道民が主体的になれるかどうかが成功の鍵です。道庁はそれを理解し並走する必要があると思います」

2024年6月29日 19:51北海道新聞どうしん電子版より転載