厚生労働省が5日発表した2023年の人口動態統計(概数)で、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す「合計特殊出生率」は過去最低の1.20まで低下し、少子化の加速が鮮明になった。道内は1.06で、東京の0.99に次いで全国で2番目に低く、抜本的な対策が急務だ。ただ5日に成立した少子化対策関連法は児童手当拡充など子育て世帯支援は強化する一方、結婚を望む人への後押しは十分とは言えず、出生率上昇につながるかは不透明だ。

出生率底割れ、危機的 過去最低1.20 少子化対策法、反転への効果不透明 | 日本版レコンキスタ宣言 旅立った孫と子孫への私の人生卒業論文 ...

 「少子化対策は待ったなしの瀬戸際だ。スピード感を持って子ども・子育て支援の抜本的な強化を実行に移していく」。林芳正官房長官は5日の記者会見でこう述べ、社会全体で子育て世帯を応援する機運の向上に取り組む考えを強調した。
 ただ日本の少子化は、歯止めがかからない状況だ。厚労省が発表した23年の出生数は過去最少の72万7277人(前年比4万3482人減)で、政府推計より11年速いペースで減った。
 出生率は05年に1・26で底を打ち、経済の好転や第2次ベビーブーム世代(1971~74年)の積極的な出産などで15年には1.45まで回復したものの、22年に再び1.26まで低下。23年は1.20でついに「底割れ」した。若年人口が集中する東京も0.99と初めて1を割り込み、人口減少のさらなる加速をうかがわせる結果となった。
 結婚せずに出産する人が少ない日本では、婚姻数の増減は出生数に直結する。23年の婚姻数は新型コロナウイルス禍で急減した21年の50万1138組を下回り、戦後最少の47万4717組まで減少。戦後初めて50万組を割り込んだ。
 婚姻数減少の背景には、若年層の経済的不安の高まりがあるとされる。一般社団法人人口減少対策総合研究所(東京)の河合雅司理事長は「少子化対策には、結婚に踏み切れない人たちに対する直接的な経済支援が必要だ」と指摘する。
 一方、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の具体化に向け、5日成立した関連法は既に結婚し、子どもを持つ世帯への支援が目立つ。児童手当の拡充や、親が未就労でも保育所を利用できる「こども誰でも通園制度」など既に子どもを持つ世帯への支援は手厚くするが、未婚・晩婚化の要因となっている若者の雇用の不安定化や、女性への家事や育児負担の偏りなどを解消するための対策は乏しい。
 少子化対策に必要な年3兆6千億円の財源は、公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」制度を創設し、幅広い世代から徴収する。首相は「実質負担なし」との説明を繰り返してきたが国民の納得を得たとは言いがたく、実質負担増への懸念は結婚や出産を控える新たな要因にもなりかねない。
 上智大の中里透准教授(財政学)は「政府は対策の目的が出生率の引き上げなのか、子育て世帯の家計支援なのか、もっと明確にすべきだった」と指摘。「政府が財源問題に正面から向き合わなかったため、子どもを育てやすい社会をつくるという国民の意識も広がらなかった」と話した。
 <ことば>合計特殊出生率 1人の女性が生涯に産む子どもの数を推定した人数。15~49歳の女性の年齢別出生率を合計する。戦後の第1次ベビーブームが起きた1947年には4・54だったが、75年に2を割り込んだ。政府は90年代から少子化対策に取り組んでいるが、低下に歯止めがかかっていない。安倍政権では、若い世代が希望通りの数の子どもを持てる「希望出生率1・8」を目標に掲げたことがある。
 
■婚姻、50万組切る 晩婚化、初産年齢高く
 2023年の婚姻数は初めて50万組を割り込み、47万4717組(道内は1万7279組)だった。新型コロナウイルス禍で急減した21年の50万1138組を下回り、戦後最少となった。22年は3年ぶりの増加で回復の兆しを見せたが、コロナ禍後の巻き返しは続かなかった。晩婚化とともに、第1子を産む年齢が高くなる傾向も目立った。
 日本は結婚せずに出産する人が少なく、婚姻数の増減が出生数に直結する。婚姻数は1972年の109万9984組がピークだった。70年代後半から2010年まではおおむね70万組台を維持していたが、18年に初めて60万組を割るなど減少基調が続く。
 平均初婚年齢は30年前と比べて上がっている。1993年は男性28・4歳、女性26・1歳だったのに対し、2023年は男性31・1歳、女性29・7歳に。第1子を出産した際の女性の平均年齢も上がり、93年は27・2歳だったのに対し、23年は31・0歳で過去最高となった。
 平均初婚年齢を都道府県別で見ると、北海道は男性30・6歳、女性29・4歳。最高は男女とも東京で、男性32・3歳、女性30・7歳。最も低いのは、男性は島根と宮崎の30・0歳、女性は島根の28・9歳だった。
 全婚姻数に対する再婚の割合は男性18・5%で前年比0・1%減、女性16・0%で前年と同じだった。離婚数は18万3808組で、前年比4709組増。

2024年6月5日 22:46(6月6日 10:28更新)北海道新聞どうしん電子版より転載