夜、おしっこに何度も起きてしまう夜間頻尿は、睡眠の質を低下させるだけでなく、おしっこに起きた際の転倒や骨折の可能性、日中の眠気、疲労感など日常生活に大きな影響を及ぼす。実は夜間頻尿は呼吸器、循環器、腎、内分泌疾患のほか、睡眠障害、生活習慣などさまざまな背景で起こり、原因が分からないことも多い。専門医は「『頻尿は恥ずかしい』と思わず、早期に病院を受診することが健康を取り戻す近道」と訴える。
■前立腺肥大症や尿路結石、がんなど 
 頻尿は泌尿器科を受診する患者が訴える最も多い症状の一つだ。関連領域の専門家でつくる国際禁制学会は2002年に夜間頻尿を「夜間、排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」と定義したが、回数にかかわらず生活の質(QOL)が低下したと感じた時に受診するのが望ましい。加齢とともに増加し、60歳を超えると8割以上の人が夜間、トイレに行くために起きているという。だが、加齢だけの理由で起こる訳ではない。
 日本泌尿器科学会の専門医・指導医で、坂泌尿器科病院(札幌市西区)の松谷亮医師によると、頻尿は男性の場合、前立腺肥大症、尿道炎など、女性は子宮内膜症、子宮がん、男女共通では尿路結石、膀胱(ぼうこう)炎など、さまざまな病気を背景として起こる=表=。松谷医師は「原因は多岐にわたり、特定できないケースも多い」と指摘する。
 夜間頻尿は①多尿(24時間の尿量増)②夜間多尿(夜間の尿量が1日の尿量の3分の1)③膀胱蓄尿障害(少ない尿量でトイレに行きたくなる)④睡眠障害(眠れないのでトイレに行く)―が原因で起こる。
 このうち夜間多尿は、心機能の低下や筋力の低下によって起こる下肢のむくみが原因の一つになっていることがある。日中の活動中に脚にたまった水分は、睡眠で横になると心臓に戻る。心臓は腎臓に不要な水分を排出するよう指令を出す。これにより夜間の尿意が起こるという。
 一般的な頻尿の治療は、前立腺肥大症や過活動膀胱など、病気の種類によって薬物が投与される。一方、夜間多尿は塩分と夕方以降の水分の摂取を控えることや散歩、スクワットなどを行う生活指導が中心だったが、2019年に夜間多尿を対象とした初の治療薬「デスモプレシン製剤」が発売された。夜間に過剰な尿をつくらないようにする効果がある。ただ、対象は男性のみで、心不全や腎機能が低下している人には使えない。
 夜間頻尿は、血圧を下げる降圧薬として多く使われているカルシウム拮抗(きっこう)薬の副作用や、尿量を増やす薬剤を内服する糖尿病などの病気で起こることもある。さらに脳卒中などの予防のために水分を多く取るよう指導されることが、夜間多尿の原因となっていることもある。
 松谷医師は「心機能のチェックや血圧・塩分管理、内服薬の見直しなど内科医との連携も重要になってくる」とした上で、「夜間頻尿でお困りの方は、まずは泌尿器科を一度受診してほしい」と話している。


■治療に排尿コントロール訓練も
 頻尿の診断はさまざまな検査、問診によって行われる。
 一般的には過去1カ月間の排尿の状況を答えるチェックシートへの記入のほか、必要に応じて尿流量測定(1回の尿量や排尿の勢いを調べる)、CT、超音波、膀胱(ぼうこう)内視鏡の各検査が行われる。
 治療の一つとして行われる行動療法は、看護師と水分摂取量や生活習慣の見直しを行うものだ。必要に応じて排尿をコントロールする方法を身に付ける膀胱訓練(尿をためる訓練)、出産や加齢などで緩んだ筋肉を鍛える「骨盤底筋トレーニング」を学ぶ。
 また、泌尿器に病気がないと診断された場合は水分摂取と排尿の状態を記録する「排尿日誌」を記載してもらい、生活習慣を把握し、治療につなげる。(編集委員 荻野貴生)2024年6月24日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載