1945年のきょう、沖縄戦での日本軍の組織的戦闘が終わった。米軍は3カ月間にわたり、艦砲射撃や空爆を絶え間なく続けた。島は猛烈な攻撃により地形が変わり、洞窟へ逃げた住民は火炎放射で追い詰められた▼<逃げ場のない幾十万の住民が、右往左往して、いたずらに砲爆弾の犠牲となり、食に飢え、人間悲劇の極致を展開した><沖縄島の、中南部は一木一草もとどめぬほど、赤ちゃけた地肌を表わしていた>▼50年に出版された記録「沖縄戦記 鉄の暴風」。地元紙の沖縄タイムスの記者たちが生存者をたずね歩き、丹念に取材した。戦場のむごいありさまを住民の視点から克明に記録している。戦争が生む惨禍はどれほどか。第一級の史料である▼この定評ある本が今月、筑摩書房の「ちくま学芸文庫」のラインアップに加わった。元の本を出してきた沖縄タイムス社が初の文庫化を認めたのには訳がある▼辺野古の新基地の建設が強行され、台湾有事に備えた自衛隊の増強が進む。戦後80年を前に県民は戦火の予感におののく。<沖縄戦の記憶はどんどん遠くなり、日本の軍事化は沖縄に集中>するが、本土との心の距離は広がっている。新版のまえがきは強い危機感をあらわにする▼二度と戦争をしない、させないための「日本人必読の書」。文庫本の帯の言葉にうなずく。

2024年6月23日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載