札幌市中央区の慈啓会特別養護老人ホームで働く介護福祉士、高田千秋さん(34)は、2年前に亡くなった90代女性入所者のみとりが忘れられない。
 入所して1年ほどが過ぎ、体調が悪化してみとり期間に入った。死期が迫り、本州在住で目の不自由な娘から「居室に泊まり込んで付き添いたい」と言われた。
 当時はコロナ禍まっただ中で、面会には場所や時間の制限があった。感染対策の強化はもちろん、暗いと見えにくくなる娘への配慮など、業務は増える。「でも、みとりが近くなった家族には、できるだけそばにいてほしい」。その思いで全職員が一致。女性は亡くなるまでの3日間、娘と寝食を共にし、互いの人生を振り返るなど有意義な時間を過ごした。
 「おかげさまで納得のいく最期を迎えられた」。娘から頭を下げられ、「2人の思いに少しでも寄り添える介護ができた」と思うと、涙があふれた。「介護は人とのつながりがベースの仕事」。遠慮がちだった入所者や家族に信頼されて本音を打ち明けられたり、「ありがとう」と笑顔で言ってもらえたりしたとき、強くやりがいを感じるという。
 多くの人が介護に抱くイメージは、「大事な仕事」の半面、「重労働で低賃金」ではないか。2025年度に32万人の介護職員が不足する、という厚生労働省の予測もある。ただ、介護職を志望する若者は少なく、施設は人手不足に苦しみ、職員を募集しても集まらない。高田さんは「私の出身大学も本年度から介護コースの学生募集を取りやめた」と話す。
 人材不足に対応するため、国は職員の待遇改善や情報通信技術(ICT)の導入を促す。「労働環境や給与は少しずつ良くなっている」。高田さんは、「介護は私の生きがい。若い人たちにもっと魅力を知ってもらいたい。不安にならず、この業界に飛び込んで来てほしい」と力を込める。(くらし報道部長・佐藤宏光)

2024年6月22日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載