抗生物質が効かない「薬剤耐性菌」が、人から野生動物や自然環境に広がっている可能性があることが、北大大学院や札幌医科大などの共同研究で分かった。野生動物や河川などから採取した大腸菌を解析したところ、人の耐性大腸菌の遺伝子と9割超で一致した。研究グループは「薬剤耐性菌の抑制策は抗生物質を多く使う医療現場の中だけでは不十分だ」とし、人、動物、自然を横断した対策の重要性を訴えている。
 研究グループによると、薬剤耐性菌の全遺伝情報を解析して人、動物、自然との関連性を明らかにした研究は日本で初めてという。
■対象は「大腸菌ST131」
 医学や獣医学、環境学の専門家が、尿路感染症や敗血症などに用いる抗生物質が効かない大腸菌ST131を調べた。ST131は世界保健機関(WHO)が5月に公表した、人に広がっている薬剤耐性菌リストで対策の優先度が最も高いグループに分類されている。

野生動物や自然環境にも広がっている可能性が研究で明らかになった薬剤に耐性がある大腸菌ST131(佐藤豊孝・北大院准教授提供)

研究グループは2016~21年、岐阜県で採取した野生のタヌキやシカなどのフン5検体と同県や滋賀県の河川や湖の水11検体、両県に住む患者の尿57検体を調査。各検体から取り出したST131の全遺伝情報を解析して比較した。
 その結果、動物のフン4検体と河川や湖の水4検体が、患者の尿のST131の遺伝子配列と95%以上一致した。最も高い一致率は河川の水1検体で99・3%。同じ期間と地域で遺伝子配列が近いST131が検出されたことから、人の薬剤耐性菌が一部の野生動物や自然環境に拡散している可能性が高いとした。
■人と重なる生活圏
 要因は、人と野生動物の生活圏が河川や湖で重なることや、野生動物が人里に近づき人の残飯を食べることなどが考えられるという。ST131以外の薬剤耐性菌も人から拡散している可能性があるとみている。

佐藤豊孝・北大大学院獣医学研究院准教授

研究グループの佐藤豊孝・北大大学院獣医学研究院准教授(39)=獣医衛生学=は、ST131のさらなる拡散で、逆に動物や自然から人に伝播し抑制が困難になることをと危惧。抑制に向け「ST131が人からどんな経路で野生動物や自然環境へ広がったのかを調べたい」としている。研究論文は国際学術誌「ワンヘルス」で発表された。

 <ことば>薬剤耐性菌 人間や動物に投与した抗生物質に対する耐性を獲得した細菌。免疫が落ちた人などが感染すると重症化し死亡するリスクが高まる。薬剤耐性菌が絡む全世界の死者は2019年に推計で495万人に上った。対策を講じなければ50年には死者が年間1千万人に達するとの予測もある。世界保健機関(WHO)や日本など世界各国が協力して対策に取り組んでいる。

2024年6月20日 12:00北海道新聞どうしん電子版より転載