2024年春闘で大手企業を中心に高水準の賃上げ回答が相次ぐ中、雇用者の3分の1強を占める非正規労働者は賃上げの動きが鈍く、働き方の違いによる格差が広がる懸念が強まっている。背景には人手不足や経済情勢、働く時間を抑えて社会保険料の負担を避ける「年収の壁」問題など複数の要因があるとみられる。専門家らからは最低賃金の大幅な引き上げや、正規職員への転換などを求める声が上がる。
 「『5%の賃上げなんか実感していない』、『自分の仕事とは関係ない』と話す相談者もいる」。札幌を中心に若者の労働相談を行う個人加盟の労働組合「さっぽろ青年ユニオン」の田中小夏執行委員はこう話す。
 連合による企業側回答の中間集計(3日時点)では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率は5.08%と、33年ぶりの高水準を維持。連合傘下で、非正規労働者が組合に所属している一部の企業が対象となる集計では、非正規労働者の時給の賃上げ率も5.74%(道内は5.47%)と好調に見える。
 しかし、厚生労働省の23年の調査では、非正規労働者のうち労働組合に加入しているのは推定8.4%。ほとんどが組合に入っていないため、実情は異なるようだ。
 23年から全国各地で非正規労働者の賃上げを求める活動「非正規春闘」を展開する実行委によると、活動2年目の今年は107社に「10%以上の賃上げ」を求めたが、賃上げ回答を得たのは半分の59社。賃上げ率の平均は3%台(5月時点)にとどまる。参加団体の一つ総合サポートユニオン(東京)の青木耕太郎共同代表は「組合を組織しない人を含めた非正規労働者全体の賃上げには、最低賃金の大幅な引き上げが必要だ」と訴える。
 非正規労働者の中でも業種による賃上げの格差がある。日本商工会議所が5日に初めて発表した中小企業の賃上げ率の調査では、正社員は3.62%、パート、アルバイトなどは3.43%だった。
 担当者は「非正規は人手不足が深刻な業種を中心に賃上げ率が高い」と分析。業種別では医療・介護・看護業(4.86%)、運輸業(4.67%)が4%台の賃上げだが、最も低い情報通信・情報サービス業は1.97%、金融・保険・不動産業は2.77%だった。
 さっぽろ青年ユニオンの田中執行委員によると、相談はセクハラやパワハラなどが中心だったが、連合の集計で高水準の賃上げ傾向が鮮明になった後の4月ごろから、働き方や給与に関する内容が急増したという。相談者の職場は組合のない中小規模の企業が多い。田中さんは「賃金が上がったという話は聞かない。事業規模の大小にかかわらず賃上げできるような環境づくりを進めてほしい」と求める。

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 労働問題に詳しい日本総研の山田久客員研究員によると、非正規労働者の7割を占める女性には、配偶者に扶養されるパート従業員などが含まれていることも、企業側が賃上げに踏み切れない一因だ。賃上げすれば年収の壁を越えないように1人当たりの労働時間を減らさなければならず、人手不足に拍車をかける恐れがあるという。
 山田さんは「『年収の壁』の制度は女性の経済的自立が進んだ現在とは合わなくなっている。男性も女性も柔軟に働くことができる環境整備が必要だ」と指摘する。

2024年6月15日 19:51(6月16日 16:42更新)北海道新聞どうしん電子版より転載