LGBTQなど性的少数者に配慮した職場環境づくりを後押しするため、函館市内の企業・団体に専門のアドバイザーを派遣する、函館市の「LGBTフレンドリー企業推進アドバイザー派遣事業」の利用が伸び悩んでいる。専門家は「性的少数者への配慮は社会全体で考えるべき課題」と指摘、周知の工夫などを提言する。

 函館市は2022年4月に、性的少数者のカップルを公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入。これに先がけ、性的少数者への理解促進につなげようと21年から同事業を始めた。

 事業所などは、道社会保険労務士会函館支部の社労士を講師として無料で3回まで派遣を受けられる。例えば、性別を限定しないトイレや更衣室の整備、性的少数者を想定した社内制度の規定、従業員の啓発など、職場環境や顧客サービスの見直しについて提言を受けたり基本知識を学ぶことができる。

講師の社労士から、性的少数者も働きやすい職場に必要な制度や配慮について説明を受ける日本政策金融公庫と道南うみ街信金の職員=2023年10月4日(日本政策金融公庫提供)

 

 日本政策金融公庫函館支店は昨秋、道南うみ街信金と合同で同事業を利用したセミナーを開催した。参加した職員は当事者の望まない「アウティング(性自認、性的指向の暴露)」被害についても学んだ。

 講師からは事業所内での相談窓口の設置など、性的少数者の孤立を防ぐための取り組みなどを提言された。同支店の北原政憲総括課長は「性的少数者に関する用語など、基礎から学ぶ職員も多かった」とし、「多様な人材が活躍できる環境は職員全員の働きやすさにもつながる。相談体制やルール作りなどを職場で話し合いたい」と話す。

 函館市は函館商工会議所の会報への年1回の折り込みチラシや市のホームページなどで同事業の利用を呼びかけるが、初年度の11回をピークに、22年度は7回、23年度は4回にとどまる。本年度は6月時点で1社が利用を希望している。

 函館市教委は23年度に初めて「ジェンダーや多様な性に配慮した教育の推進の在り方」を主題とした管理職研修を実施した。道教大函館校の木村育恵教授(教育社会学)は、教育現場では文部科学省が22年12月、改訂版生徒指導提要に性的マイノリティーに関する課題と対応を新たに明記したことが契機となり、教育現場で性の多様性への配慮が進んでいると指摘。「市民も企業も自分事として考える必要がある」と述べる。

 札幌市は年1回以上の啓発研修の実施や、当事者への相談体制、同性パートナーも福利厚生の対象とするなどの指標を満たした企業を「LGBTフレンドリー企業」として認定している。6月4日時点で102社が登録され、同市のホームページ上やハローワークの求人で登録企業として紹介されるほか、登録マークを印刷物で利用できる。札幌市男女共同参画課は「企業イメージ向上や、採用にも有利に働くなど、利点が一定度理解されているのでは」と話す。

 派遣事業を担当する函館市市民・男女共同参画課は「アドバイザー派遣を受けた企業からその後の取り組みを聞き、参考になる事例を紹介するなど、事業のPRを検討したい」としている。

 

2024年6月15日 20:57(6月16日 16:52更新)北海道新聞どうしん電子版より転載