罪を犯した人や非行少年の社会復帰を支える保護観察制度を、根底から揺るがす事態だ。保護司の安全確保に向け、対策を急がねばならない。
 大津市の保護司新庄博志さんが自宅で殺害されているのが見つかり、警察は、新庄さんが担当していた保護観察中の無職飯塚紘平容疑者を殺人容疑で逮捕した。

 飯塚容疑者は、コンビニ強盗で執行猶予付きの有罪判決を受けていた。新庄さんとの面接の際に襲った疑いがあるとされる。

 容疑者が投稿したとみられるX(旧ツイッター)の書き込みには「保護観察とか~。全然保護しない」などとあった。警察は、保護観察を巡って不満を募らせた可能性があるとみて調べている。

 犯罪者の立ち直りを支援する保護司が、その活動中に命を奪われたとすれば、あまりに衝撃的で痛ましい。一体何があったのか、詳しい動機の解明が不可欠だ。

 保護司は全国に約4万6000人いる。法務省の保護観察官と連携して、保護観察中や仮出所中の人と面接し、生活や就労の相談に乗っている。身分は法相の委嘱を受けた非常勤の国家公務員だが、実質は無給のボランティアだ。

 これまで、保護司の家が担当する少年に放火された事件などはあるが、保護観察中の対象者に殺害された例は過去にないとされる。保護司が安心して活動できるよう再発防止策を講じるべきだ。

 罪を犯した人に家庭の温かみを感じてもらうため、面接は保護司の自宅で行われることが多い。今回のような事件が起きた以上、面接場所として、各地の更生保護サポートセンターや公民館などをもっと使いやすくしてはどうか。

 保護司が不安を感じる対象者については、複数人で面接するといった工夫も重要だろう。

 保護司は高齢化が著しく、なり手不足が深刻だ。そのため、法務省は、人材の確保や待遇の見直しを進めている最中だった。事件により、なり手不足に拍車がかからないか心配される。

 犯罪者に接してきた警察OBや法曹関係者を登用するほか、保護司を支援する仕組みを整備するなど不安の 払拭ふっしょく に努めてほしい。

 明治時代に篤志家が刑務所の出所者を支援したのが保護司の始まりで、社会奉仕の精神を掲げている。だが近年、地域社会は変容し、篤志家頼みには限界がある。

 時代に見合う制度に改めることが大切だ。薬物依存など対象者が抱える問題も複雑化しており、保護司の研修充実も欠かせない。

2024/06/11 05:00 読売新聞オンラインより転載