6月上旬。岩見沢市民会館・文化センターの一角で、道教大岩見沢校の学生たちが「岩見沢ねぶた祭」(8月31日、9月1日)のねぶた製作に励んでいた。ヒグマとの戦いをモチーフにした下絵を基に、クマの頭や猟銃をかたどって針金を曲げ、骨組みを作っていく。
 祭は大学生が中心となり、市内の商店街関係者や企業などが協力して2021年から開いている。美術などを学ぶ学生約60人がねぶたの製作やイベントの企画、広報に携わる。
 おはやしに合わせて跳人(はねと)が練り歩き、大人も子どもも楽しめるイベントに成長した。「祭の日は、岩見沢を日本で一番熱いまちにしたい」。実行委員長で4年生の阿部隼さん(21)は声を弾ませる。
 阿部さんたちが目指すのは、祭をきっかけに岩見沢との関わりを持つ「関係人口」を増やすことだ。岩見沢市の人口は約7万4800人(5月末現在)と、祭が始まってからも約4千人減った。人口減の歯止めがかかりにくい中、岩見沢と関わることで岩見沢を身近に感じてもらい、岩見沢を再訪したり、ふるさと納税に寄付してもらおうという「作戦」だ。
 コロナ禍の21年に1800人だった来場者は年々増え、22年は1万2千人、23年は推計で1万3500人に上った。今年は2万人を目標に掲げる。
 卒業生で、初代実行委員長を務めた藤本悠平さん(24)=青森県出身=は「このまま何もしなければ、岩見沢のマチがなくなってしまうかもしれない。学生を応援してくれる地域だからこそ、学生の力で関係人口を増やし、恩返しをしたい」と話す。
 道教大岩見沢校は音楽、美術、スポーツなどを学ぶことができ、学生数は760人。ねぶた祭の美術学生のように、得意な分野を生かしたまちづくりも可能だ。市全体の人口が減る中、学生数は大きく変わっておらず、存在感は増している。こうした学生による取り組みは他でも進む。
 5年前から活動する同校の学生でつくる団体「ヒトツナギiwamizawa」には約30人が所属。子どもたちと雪遊びをしたり、農業について学ぶ催しを企画したりと活動の幅は広い。アルバイトを兼ね、商店街のアーケードの除雪にも加わる。
 団体を創設したのは、22年に同校を卒業した遠田悠也さん(24)。現在は岩見沢を拠点に、空き店舗の再活用など地域づくりに関するプロのコーディネーターとして活動する。商店街で除雪の人手が足りないなどニーズを聞き取り、学生に投げかける。「地域と若者の橋渡しをする活動が大事」という。代表の斎藤夏帆さん(19)も「年齢を問わず交流し、地域の人も学生も居心地の良い活動をしたい」と話す。
 学生たちの活動は、成果や数字として見えにくい面もある。ただ、市内で地域活性化事業を手がける会社「冬春創社(とうしゅんそうしゃ)」の片山順一代表(44)は「若者が元気に活動していることは、まちなかへの新規出店などにもつながる。一緒に岩見沢で頑張る人の輪を広げていきたい」と話す。=おわり=


岩見沢ねぶた祭に向け、メンバーとともにねぶたの製作に励む道教大岩見沢校の阿部隼さん

 <メモ>岩見沢市の人口7万4800人は、10年前と比べ1万1800人減っている。高齢化率は10年前に30.72%だったのが現在は38.06%となった。一方、道教大岩見沢校は毎年定員を満たしており、学生数760人は、全人口の1%以上に当たる。
 
 

 「人口減社会 空知の現在地」は今後も随時掲載します。

2024年6月15日 9:56北海道新聞どうしん電子版より転載