介護が必要な高齢者や障害者が、災害時に直接避難できる「指定福祉避難所」の指定が十分に進んでいない。日頃から人手不足にあえぐ介護施設などでは、非常時に十分な受け入れ態勢が取れるかどうか不安があることが要因とみられる。専門家は「行政は人材などソフト面での支援をより進める必要がある」と提言する。
 「難病のある息子が通い慣れた施設に避難できるのはありがたい」。旭川市の大泉弘さん(47)は、9歳の息子が日頃利用している重度障がい児支援施設「花色」が、昨年12月に直接避難できる旭川市の指定福祉避難所になったことを歓迎する。
 息子は在宅酸素療法を受け、チューブを使って栄養を送る「経管栄養」で食事を摂取。移動はストレッチャーで、一般的な避難所に避難することは難しい。


旭川市の「指定福祉避難所」に指定された医療的ケア児などの通所施設「花色」。災害時には市から電源の支援などが見込める

 

 人工呼吸やたんの吸引など医療的ケアを必要とする子どもたちが利用する通所施設「花色」が、自ら指定福祉避難所を目指したきっかけは、2018年の胆振東部地震で発生した全域停電(ブラックアウト)が大きい。
 当時、利用者のたんの吸引器などの充電を近隣の事業所などに依頼したが応じてもらえなかった。指定福祉避難所になることで、市などから自家発電機や電気自動車の貸与といった支援が優先的に受けられるほか、地域での理解や周知も進めていきたい考えだ。
 利用者からの「施設に出向きたかったが、迷惑になると考えた」「医療機器の音も出るし、一般の避難所に行くのはためらう」との話を聞いたことも後押しになった。
 施設運営会社の斉藤由紀代表は「施設スタッフだけではなく、一緒に避難した家族も医療的ケアが必要な子どもの支援者だ」として、災害時の人手不足も乗り越えられると考える。
 だが、旭川市内で直接避難できる指定福祉避難所は、現在この1施設にとどまる。
 上川管内では、ほぼ全ての自治体が「福祉避難所」を確保している。ただ、公共施設など一般の避難所にまず避難した上で、配慮が必要な人がいると行政が判断した場合に開設する制度としていることが少なくない。移動が負担になる障害者らにとっては課題が多い仕組みの上、初めから避難を諦める人も出てしまう懸念がある。
 国も、直接避難できる施設を増やすよう自治体に促しているが、受け入れを想定していない被災者まで避難してくることを懸念して、指定をためらう施設も多いとみる。
 名寄市は、市総合福祉センターを「指定福祉避難所」に設定するが、まずは一般の避難所に避難してもらうことにしている。現在、支援が必要な人の個別避難計画を作成している最中で、計画作りが進み次第、各地域に直接避難できる避難所を設けたいとしている。
 士別市は、支援が必要な人の一部は、福祉避難所に直接避難できる態勢を整える。富良野市は一般の避難所と兼ねた福祉避難所を1カ所を設け、高齢者など要支援者を優先して受け入れることにしている。
 旭川市立大保健福祉学部コミュニティ福祉学科の北村典幸教授は「災害時は福祉施設のスタッフも被災し、勤務できなくなることもある」と指摘。「行政は福祉事業所と連携し、具体的な計画に基づいた訓練や、平時からの人的交流を進めるべきだ」と訴える。

2024年6月13日 19:51北海道新聞どうしん電子版より転載