運動機能に障害が出るパーキンソン病で、新たな治療「持続皮下注療法」が保険適用された。飲み薬の効果が弱くなった人が対象で、従来の外科手術や胃ろうによる薬注入治療と比べ、リスクが少なく、取り扱いが大幅に容易になった。
 高齢化に伴い、パーキンソン病は、世界的に患者が急増。厚生労働省によると、国内には約29万人の患者がおり、特定疾患では最も多くなっている。欧米では男性、日本では女性に多い。65歳以上では100人に1人が発症するといい、感染症ではないものの「パーキンソンパンデミック」との指摘も出ている。


 

大脳の下部にある中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少することで発症する。手足のふるえ、動作緩慢、筋肉の固縮(筋肉が硬くなり、動きがぎこちなくなる)、姿勢反射障害(転倒しやすい)が主症状だ。50歳以上で起こることが多いが、30代で発症することもある。原因は不明だが、40歳以下の若年性の場合は遺伝が関係していることがある。
 日本神経学会の指導医・専門医で、患者の7割がパーキンソン病の「医療法人北祐会 札幌パーキンソンMS神経内科クリニック」(札幌市北区)の廣谷(ひろたに)真院長によると、治療の基本は服薬だ。薬は主に3種類あり、ドパミンを補充する役割がある「レボドパ」、ドパミンの分泌を促進する「ドパミンアゴニスト」、「補助薬、非ドパミン系治療薬」がある。
 このうちレボドパは最も強力な治療薬で、初期の段階では症状が大幅に軽減する。この状態は数年間続くが、服薬期間が長くなると、服薬後2~3時間で薬効が減弱する日内変動や、体が勝手に動いてしまうジスキネジア(不随意運動)を伴うことがある。
 その副作用を克服するために開発されたのがドパミンアゴニストだ。作用時間が長く、日内変動やジスキネジアを起こすことも少ない。半面、薬が効くのに時間がかり、幻覚や眠気などの副作用が出ることがある。
 廣谷院長は「それぞれの薬にメリット、デメリットがある。さまざまな薬の組み合わせで症状を抑えるが、近年は薬の種類も増え、治療の幅は広がっている」と指摘する。
 病状が進行し、日内変動やジスキネジアを薬でカバーできなくなると、「脳深部刺激療法(DBS)」や、「レボドパ・カルビドパ配合経腸溶液療法(LCIG)」などを検討する。
 DBSは外科手術で脳深部に電極を埋め込み、前胸部に植え込んだ刺激装置で、脳を刺激し、症状をコントロールするもので、2000年に保険適用された。刺激部位や強度の調整が必要だが、日常生活で刺激装置の手入れをする負担が少ない。
 LCIGは、胃ろうをつくり、チューブで腸から薬剤を持続的に投入するもので、2016年に保険適用となった。血中濃度の変化が減り、日内変動やジスキネジアが軽減する半面、チューブが詰まらないよう毎日手入れする必要がある。
 これに対し、昨年5月に新たに保険適用となった「持続皮下注療法」は、2センチほどの小さな針が付いたパッチを腹に貼り、持続的に薬剤を体内に注入する。LCIGが最長16時間の投与が可能なのに対し、持続皮下注療法は24時間投与することができる。
 廣谷院長は「患者にとり体に優しい治療。幻覚などの副作用の懸念もあり、現段階で使っている人は各医療機関とも限られているが、実績を積んでいくと使う人が増えるのではないか」とし、「パーキンソン病は早期に薬剤治療とリハビリを始めれば、手術などを避けられる」と話す。

廣谷真院長
■症状、画像所見などから総合的に診断
 パーキンソン病は症状、画像所見、薬剤による治療の効果などから総合的に診断する。特に初期には便秘、頻尿、発汗、起立性低血圧、不眠、性機能障害、精神症状など非運動症状があり、個人差も大きい。このため初期の段階では総合内科、精神科、整形外科などを受診する人も多い。
 画像検査は放射性医薬品を使ったDATスキャン、MIBG心筋シンチグラフィー検査などがある。特にDATスキャンは、ドパミンの分布を可視化し、パーキンソン病の診断精度の向上、治療方針の決定に有用という。

病気の症状や程度を表すものとして「ホーン&ヤール重症度」=イラスト参照=、「生活機能障害度」との分類がある。
 ホーン&ヤール重症度は5段階あり、進行度は人それぞれ。日内変動を伴う場合は1日のうちでも2度になったり、4度になったりする人もいる。
 生活機能障害度は1度が「日常生活、通院にほとんど介助を必要としない」、2度が「部分的介助を要する」、3度が「全面的介助を要し、独立では歩行起立不能」。(編集委員 荻野貴生)2024年6月12日 4:00(6月12日 8:32更新)北海道新聞どうしん電子版より転載