暖かく天候に左右されない場所で募金活動をさせてほしい。JR札幌駅と大通地区を結ぶ札幌駅前通地下歩行空間(チカホ)について、そんな声が高まっています。歩行者が地上の2倍に上り、冬や雨天時でも募金を呼びかけられるチカホ。携帯電話の販売や有料の占い、イベントなどはできるのに募金は許されない理由は何か。取材で追いかけてみると―。
 「学生が体調を崩さないようチカホで募金活動したいと毎年お願いしているが、断られてしまう」。親を亡くした遺児らに奨学金を給付するあしなが育英会(東京)の岡本蓮さん(25)=北海道エリア学生担当=は実情をそう訴えた。
 あしなが奨学金の原資の一つである募金活動は、ボランティア学生らが毎年4月と10月に4日間ずつ街頭で行っている。札幌ではJR札幌駅前と札幌三越前に立つことが多い。昨年10月に募金を呼びかけた際は雪もちらついた。岡本さんは「チカホなら、より多くの人に呼びかけることもできるのに」と語る。

サイドバーでクエリ検索

札幌市内の商店街でつくる札幌市商店街振興組合連合会が昨年9月に行った調査によると、チカホの1日の歩行者数は平日は地上の2倍、休日は1.7倍だった。
 チカホでの募金活動が制限されている理由は何か。
 札幌市都心まちづくり課によると、チカホは二つの広場や壁沿い4メートルのスペースをイベントなどに利用できる。利用の可否を判断するのは、市の指定管理者である「札幌駅前通まちづくり会社」。利用したい場合は、ここに申請する。
 市と同社によると、物販やイベントは、公序良俗に反しないかなどのチェックを経て幅広く認めている。実際、チカホでは食品や携帯電話などの販売ブースが並ぶことが多い。一方、募金活動で認めるのは①国や地方自治体②日本赤十字社③赤い羽根共同募金と緑の募金―の活動だけという。
制限の根拠は札幌市の「内規」
 募金活動の制限は、札幌市がチカホ開設3年後の2014年に定めた内規に基づいている。当初は民間も含めた幅広い団体に募金活動での利用を認めていたが、募金の使途に疑問の声が寄せられため「募金詐欺などのトラブルで責任を問われかねない」(市都心まちづくり課)と利用を制限した。
 募金活動を認める団体を三つの団体や活動とした理由について、市は「法律に基づく団体や活動に限った」と説明する。日本赤十字社は日本赤十字社法に基づく団体で、赤い羽根募金は社会福祉法に基づいている。
 ただ、こうした判断に対し、10年にわたって利用を制限されている側の不満は根強い。札幌市の秋元克広市長や鈴木直道知事が顧問を務める北海道ユニセフ協会は、これまで何度も利用を相談しては断られてきた。チカホ以外の地下街では募金活動は認められておらず、銀輝(しろがねひかる)事務局長は「寒くて街頭の活動は10月まで。本当は通年でやりたい」。

多くの人でにぎわう札幌駅前地下歩行空間の出店=5月24日

北海道盲導犬協会は13年までにチカホで募金活動を3回行ったが、その後は断られた。阿部浩二事務部長は「チカホは足を止めてくれる人が多い」と振り返る。

 道外では柔軟に募金活動を認めている事例もある。東京駅直結の八重洲地下街は、物販は禁止する一方、募金活動の申請があれば、団体の信頼性などを管理会社が個別に判断している。

 地上ではあるが、秋田市も秋田駅東西連絡自由通路「ぽぽろーど」の利用を申請ごとに判断。チカホが認めていないあしなが学生募金の活動も認めている。

 寄付行動に詳しい関西大学法学部の坂本治也教授はチカホの募金活動の制限について「(幅広く認めている)物販の基準とぶれている」と指摘。公益財団法人や認定NPO法人など、法的に公益性が認められている団体はほかにも多くあるとした上で「札幌市は特定の団体を優遇していると言わざるを得ない。募金活動はもう少し幅広く認めてもいいのではないか」と語った。
(報道センター 藤本理佳、津田祐慈)

2024年6月10日 15:00北海道新聞どうしん電子版より転載