夜間や休日に発熱や腹痛などの応急処置を行う夜間急病センターを巡り、札幌近郊の各市が医師の確保に力を入れている。小樽市は4月、大学医局から派遣してもらう報酬を従来の1.4倍に引き上げた。医師の時間外労働に上限を設ける働き方改革による派遣縮小を避ける狙いだ。だが、近隣市の動向次第で増額を明言する市もあり、競争が激化しそうだ。
 「報酬を増やさなければ、将来的に派遣打ち切りの可能性があった」。小樽市の委託を受け、夜間急病センターを運営する同市医師会の鈴木敏夫会長(66)は危機感を隠さない。鈴木会長は2年前から、報酬の改定を市に強く要望。25年以上にわたり時給1万800円だった報酬は4月以降、1万5千円となった。
 小樽の夜間急病センターは内科、外科に対応。平日の場合、夜間から翌朝までの診療時間13時間の大半を北大や札幌医科大の派遣医師2人が担い、同市医師会の開業医らが残り時間を請け負う。
 派遣医に代わり、会員医師が診療するのは難しい。会員は高齢の医師が多く、開業医が夜勤を請け負えば翌日の診療に差し支えるためだ。同医師会は「開業医が休診すれば、2次医療機関の負担が増え、地域医療にとって打撃になりかねない」と警戒する。

札幌近郊で夜間急病センターを設置する小樽以外の6市にとっても苦しい状況は同じだ。医療関係者によると、苫小牧市は約2年前、札幌近郊では最高額の時給2万1千円に引き上げた。ただ、同市は報酬額は「非公表」とし、改定時期や改定前の額を明らかにしていない。
 残る5市は、報酬が時給換算で9千円台~1万5千円(平日)で、先行して増額した2市の動きに注目する。江別市は「大学から報酬増の要請があればすぐ対応する」、千歳市も「近隣で動きがあれば検討する」と明言する。小樽市の迫俊哉市長は「安定した医師確保には報酬額の見直しが重要」とし、さらなる引き上げも辞さない構えだ。
 報酬増が医師確保につながるとは限らない。札幌市内には、高額な報酬を支払う民間の高齢者施設などが多く、医療関係者は「診察などが少なく、1回の宿直で約10万円の報酬の出る仕事が山ほどある」と打ち明ける。
 大学病院に勤務する30代の男性医師は「宿直明けも病院での診療があり、さほど忙しくない札幌でのアルバイトがベスト。地方を選ぶ気にはなれない」とし、札幌市内や札幌から距離の近い市が有利なのが実態という。
 国際医療福祉大大学院の高橋泰教授(医療政策)は「医師不足が続く道内では、報酬額の引き上げ競争は今後避けられないだろう。医師派遣を柔軟に調整できるような『人材派遣アプリ』をつくるなど新たな仕組みづくりも急務だ」と提言する。

2024年6月8日 18:00(6月9日 9:44更新)北海道新聞どうしん電子版より転載