道内でも介護保険料の上昇が止まらない。3年ごとに改定される65歳以上の介護保険料の第9期(2024~26年度)基準月額は、道内156市町村・広域連合の平均が5738円と前回改定時と比べ45円(0.8%)増えた。介護人材が不足し、支え手の現役世代も先細る中、制度をどう維持していくのか。道内で唯一7千円を超えた檜山管内江差町を歩き、住民の声を聞いた。
 5月下旬、町の中心部にある「えさし社協デイサービスまるやま」を訪ねると、約20人がタオルを使った体操に挑戦していた。「仕事をやめてからずっと家にいたけど、ここに来て友だちができたの。楽しいよ」。大杉昌子さん(86)は朗らかに笑った。
 1年半前に転んで骨折し、現在は要介護度1で入浴介助のため週3回通う。同居する長男で公務員の則明さん(61)は複数の事業所からサービス内容や運営母体をみて選んだ。「評判はいろいろ耳に入ってくるので選択肢はあった方がいいと思う」と話す。
 江差町ではデイサービスは町内3カ所と近隣1カ所の計4事業所から選ぶことができ、介護保険サービス全体で見ても保険が適用されるメニューはおおむねそろう。町高齢あんしん課は、人口規模の割にサービスが充実していることが高額保険料の理由の一つと説明する。
 町の介護保険料は前回改定時に初めて7千円を超えた。既存の養護老人ホームが介護サービスを提供する「特定施設」の指定を受けたことで、給付額が増加。これに加えて特別養護老人ホームやグループホームなど入居施設が計6カ所あり、給付額全体の約7割を占めている。
 
■将来への危機感
 函館に次いで渡島半島の中心都市である江差町には介護事業所や医療機関が集積している。札幌へは遠いため、「高齢になって近隣から町内に移住してくる人もいる」(同課)。
 一方、高額な介護保険料に負担を感じる住民もいる。パートで働く男性(68)が払った昨年度の保険料は13万100円。所得別の段階で上から2番目に高い。まだサービスを利用していないという男性は「こんなに引かれるのとびっくりした」と話す。
 人手不足も深刻だ。町内の訪問介護事業所2カ所のうち1カ所がヘルパー不足から今年4月に新規利用を停止した。もう一方のえさし社協ヘルパーステーションでは依頼が増え、高齢者らの約90世帯を常勤4人、パート4人で回るが、「残業して何とかこなしている」(同事業所)状態。本年度の介護報酬改定で訪問介護の報酬が減額となったこともあり、介護関係者は将来的なサービスの維持に危機感を募らせる。
 
■「支え合い」模索
 介護人材と財源の確保が難しくなる中、町が模索するのが介護保険外で高齢者の生活を支える仕組みづくりだ。16年から町民有志で地域の課題解決を探る「カフェ」を開催。その参加者が中心となってNPO団体をつくり、高齢者を対象とした地域食堂を開設した。現在は、企業や町民に広く呼びかけ「ネクストイノベーション」事業として、介護サービスではまかないきれない困りごとの支援策を探る。
 町の高齢化率は23年の40.1%から40年には48.8%に上昇すると推計される。町高齢あんしん課は「高齢者が在宅で暮らせるよう、団体や企業も加わり住民同士が有償無償で支え合う仕組みを作っていきたい」と話す。
 町内で高齢者の移送支援や配食を担うNPO法人南檜山在宅福祉支援ゆいの小野寺真理事長(71)によると、利用時の自己負担があるため経済的理由でデイサービスの利用を諦める人が出ているという。「介護保険制度の隙間をNPOなど住民が埋めざるを得ない状況だ。国は制度を見直し、高齢者の人権が守られ安心して暮らせるようにしてほしい」と訴えた。

 

;。2024年6月7日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載