沼田町が「住みたい田舎」全国1位? 衝撃的なニュースが昨年発表され、当の沼田町民を驚かせた。町の担当者は「喜ばしい半面、実績がまだ追いついてない。身の引き締まる思いだった」と振り返る。
 月刊誌「田舎暮らしの本」(宝島社)が昨年2月号で掲載した第11回「住みたい田舎」ベストランキング。同社実施のアンケートに回答した人口1万人未満の全国671自治体について、同社が移住者数や専門窓口の有無などを点数化した結果、沼田町は「子育て世代」「シニア世代向け」など全4部門で全国1位に輝いた。今年も3部門で1位を守った。
 大都市から遠く、有名な観光地も無い沼田町の人口減は顕著。住みよいまちづくりをしなければ地域衰退のスピードは加速するとの危機感を持った町は2016年度、移住定住応援室を設置し「日本最高水準の応援」(住民生活課)と言うほどの住宅支援を始めた。
 20代の新婚子育て世帯が新築住宅を建てる場合、最大570万円の奨励金が受け取れる。21年度からは町産雪中米1俵(60キロ)を小中高校生のいる世帯へ贈る事業を実施。23年度は128世帯が提供を受けた。担当する町住民生活課は「食べ盛りの子どもがいる世帯に好評。町産米の味を知ってもらう機会にもなっている」とする。
 移住を検討する人が1週間から最長3カ月、町内での生活を体験できる事業「ちょっと暮らし体験」は、集合住宅と一戸建て住宅(計12戸)にいずれも月3万円台で入居できる。滞在期間中は雪中米が食べ放題とあって、毎年6月上旬から9月いっぱいは空きがないほどの状況が続くという。
 町は移住相談会を年4、5回、東京など大都市圏で開いており、あえて雪の多い冬の来町を呼び掛けている。「夏場だけ見てもらうと冬になって『やっぱり想像と違った』ということになりかねない。あえて厳しい冬の暮らしを体験してもらった上で沼田を選んでもらいたい」(同課)としている。
 こうした対策の結果、18年度から22年度までの転入者は531人に上った。このうち、応援室に相談したり、町の施策を利用したりして転入した「移住者」は195人だった。
 22年に苫小牧市から町内に移住した神山正明さん(50)、真樹さん(45)家族は住宅新築の際、町からの奨励金300万円を充てた。2人は高校生から保育園児までの5人を育てていることから、町が高校生までの医療費無償化など子育て支援に力を入れていることも、沼田への移住を決意させた。真樹さんは「苫小牧は交通量が多く、安心して外で子どもを遊ばせられなかった。こっちは静かで、子どもたちも気に入っている」と話している。
 

沼田町の住宅支援制度を活用して新築した住宅を見上げ、移住を振り返る神山さん家族

 旧産炭地を中心に、人口減少と高齢化が進む空知管内。子育て支援や移住定住策などを通じ、持続可能なまちづくりや産業の担い手確保を目指す取り組みが続く。それぞれの現場を訪ね、課題解決のヒントを探る。10回連載します。
 <メモ>沼田町の人口は2807人(4月末)で、ピークの1954年の約7分の1。空知管内の人口は26万3569人(3月末、速報値)と、60年代のピーク時の約3分の1となっている。沼田町が応援室を設置した後は「田舎暮らしの本を見た」という移住希望者からの問い合わせも多く2017、21、22年度は、転入者が転出者を上回る「社会増」となった。

2024年6月3日 21:33(6月4日 13:34更新)北海道新聞どうしん電子版より転載