臓器移植のあっせん機関である日本臓器移植ネットワークが、知的障害の療育手帳を持つ人の臓器提供の意思表示を一律に無効とする運用をしていたことが29日、分かった。報告を受けた厚生労働省は、有効な意思表示が困難な障害があるかどうかは主治医らが確認することであり、手帳を持つことのみを理由に一律に判断しないよう徹底を求める通知を移植ネットなどに出した。通知は27日付。
知的障害者による臓器提供を巡る対応
また移植ネットは29日「15歳以上の療育手帳を持つ人は知的障害者に該当するため、臓器摘出は見合わせる」と3月に周知していたとして、経緯と再発防止策を第三者組織で調査、検討するよう武見敬三厚労相から5月27日付で指示を受けたと明らかにした。
知的障害の程度は個人差が大きい。臓器移植法では「提供に関する意思は尊重されなければならない」と規定されているが、こうした運用によって一部の人の意思が反映されない状態になっていた恐れがある。
横田裕行・移植ネット理事長は29日、ホームページ上で「大変重く受け止めている。今後も引き続き、臓器提供に関する意思の尊重に努め、日本の移植医療の発展に尽力する」とのコメントを出した。
臓器移植法の運用指針では、15歳以上で知的障害などにより有効な意思表示が困難と判明した場合は臓器の摘出を見合わせることになっている。一方で意思表示が困難な障害があるかどうかは、主治医らが家族への説明などの中で確認することになっている。
厚労省は、主治医らが意思表示の困難な障害はなかったと判断した場合は、法的脳死判定と、臓器摘出が可能だとしている。厚労省が2010年に示した「考え方」でも「手帳の有無だけでなく個別の事情に応じて慎重に判断する」と明記されている。
厚労省によると今年4月、医療機関から知的障害に関する移植ネットの運用について相談があり発覚。移植ネットは、慣例的に一律に無効とする運用をしていたなどと説明したという。厚労省は無効になった件数を把握していない。
療育手帳は、支援を受けやすくするため知的障害者に交付される手帳。氏名や住所のほか、障害が重度かどうかといった情報が記載されている。
2024年5月29日 18:35(5月29日 19:59更新)北海道新聞どうしん電子版より転載