結婚への価値観が多様化する今、「結婚しない」選択をする人は増えています。昨年に創刊30周年を迎えた結婚情報誌「ゼクシィ」(リクルート社)の統括編集長を務める苫小牧市出身の森奈織子さん(40)は、時代とともに変化していくカップルの姿を発信してきました。若者の恋愛・結婚離れが言われるようになって久しいですが、森さんの目にはどう映っているのでしょうか。(報道センター 若林彩)

 もり・なおこ 1983年9月生まれ。苫小牧東高、明治大を卒業後、2006年にリクルート入社。2009年からゼクシィ編集部で記事や付録の制作に携わり、西日本版、東日本版、首都圏版の編集長を経て、22年4月から現職。現在は4歳の息子を夫や義母と育てながら、在宅ワークを中心にオンラインで編集会議や原稿チェックをこなす。都内在住。
 ゼクシィでは現在、2027年に20代後半となる1999年~2003年生まれのZ世代を中心に、若者の恋愛観や結婚観の研究を進めています。その中で、以前とは違った、今の若い世代特有の恋愛のはじめ方が見えてきたそうです。
 森さん この世代は恋愛や結婚、仕事などさまざまな選択に対し、慎重で失敗したくないという気持ちがとても大きい。私が20代の頃は、友人に自分の恋人候補になりそうな人を紹介されたら、食事に行くことから始めていたと思います。しかし、最近の若い人はインスタグラムやX(旧ツイッター)で、その人のつぶやきや思考、交友関係を入念に下調べし、ある程度その人の人となりが分かってから、会いに行くかどうかを決めています。「会う、会わない」を慎重に考え、「『会う』意味がない」と判断したら、食事にも行かない人が多いというのが特徴です
 背景には、付き合うなら効率良く「結婚前提の恋人」が欲しいという「恋愛=結婚」志向の高まりがあるようです。

■20代女性の44%が「結婚を意識する相手としか付き合わない」

リクルート社が運営する「ブライダル総研」が、2023年に全国の20~49歳の未婚男女1200人を対象に行った「恋愛・結婚調査」では、「恋愛するなら結婚のため」といった考え方が20代の男女の中で広がっていることがわかりました。
 「結婚を意識する相手としか付き合わない」と答えた人の割合は、20代女性で44.3%と最も高く、20代男性では34.6%に上りました。割合は年々増加し、17年調査と比べると20代女性は6.6ポイント、男性は10.9ポイント増えています。また、「恋愛は時間とお金の無駄である」と答えた人の割合も男女ともに17年調査から増加し、タイパ(タイムパフォーマンス=時間効率)やコスパ(コストパフォーマンス=費用対効果)を重視する傾向がうかがえました。

森さん 若い世代の交友関係は、家族や親友のような密な関係か、交流サイト(SNS)だけの、あまり親しくない関係の二つに分かれます。「結婚=恋愛」志向の高まりは、周りに信頼できる人が少ないため、結婚や家庭を持つことをセーフティーネットのような安心感を得られるものと考える人が増えていることの表れに感じます。日本で震災や大きな事故が起きる度に家族のつながりを感じる瞬間が多々あることも影響しているのかもしれません。
■結婚の意向ない女性 5割以上
 結婚に対するハードルはさらに上がっているようです。
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先ほどの「恋愛・結婚調査」では、「(いずれは)結婚したい」と答えた割合は男女ともに毎回減り続け、17年調査では女性は6割を超えていたのに、23年調査では5割を切って49.3%に。男性よりも減少幅が目立ちました。
 一方、「(今後も)結婚はしたくない」と答えた割合は年々増加しています。「どちらとも言えない」は女性で増え、23年調査では27.0%と17年調査から8.6ポイント増加しました。「(今後も)結婚はしたくない」と合わせると、結婚の意向のない女性は50.7%と半数を超えます。

「結婚はしたくない」と「どちらとも言えない」と答えた理由はさまざまです。最も多かったのは「金銭的に余裕がなくなる」(36.4%)で、「行動や生き方が制限される」(35.8%)、「メリットを感じない」(24.8%)、「自由や気楽さを失いたくない」(24.4%)、「必要性を感じない」(22.6%)と続きました。
 森さん 今回の調査で特に注目したのは「結婚する、しない」という選択に対し、「どちらとも言えない」と考える若者が増えていることです。人生で、結婚も妊娠も仕事も「する、しない」を含めて選択が増えた中で、選べなくなっているのかもしれません。
 調査からもわかるように、結婚すると「自由がなくなる」というイメージが強いようです。今は共働きでも、遠距離で離れていても結婚(遠距離婚)している人はいますし、多様な結婚の在り方を伝えていく必要があると考えています。
■結婚準備で募る違和感「なぜ夫の名前が先なの?」
 結婚を決意しても、結婚式や婚姻に関する制度や慣習に違和感を覚え、立ち止まってしまうカップルは少なくないといいます。
 森さん 結婚式の打ち合わせで式場に行くと、「どうして必ず夫の名前から先に呼ばれるのか」「結婚式の最後になぜ新郎だけが謝辞を述べるのか」など、特に女性の読者から「もう違和感でしかなかった」という話はよく聞きます。
 他にも結婚式にまつわるモヤモヤはさまざまあるようです。

森さん 結婚式は(性別で役割を分ける)ジェンダーロールの塊なんです。若い世代を結婚へ後押しするには、結婚式の既成概念を取っ払って、アップデートしていく必要があるのではないでしょうか。そのため、ゼクシィでは誌面で新しい演出の式を提案しています。例えば、バージンロードで新婦を父親から新郎に引き渡す演出に違和感があれば、最初から新婦と新郎が一緒に入場するのもいいし、親族は末席ではなく最前列だっていい、といった具合です。

■事実婚や同性婚 2人が納得する形が必要
 婚姻制度自体に違和感を覚える若者も多くいます。これまで結婚といっても男女の結婚や、法律婚を伝えることが多かったゼクシィでしたが、創刊30周年を迎え、改めてさまざまな家族のカタチを発信しています。

森さん 以前からゼクシィは同性同士のカップルや再婚したカップル、夫婦別姓にしたくて悩んでいるカップルにも広く読まれていました。結婚が「当たり前」ではなくなった時代に、一緒に生きていくと決めた人たちを、私たちは全力で祝福をしてあげられるメディアでありたいと編集部内で再確認したんです。
 最近の誌面では、夫婦は「ふうふ」に、夫や妻は「パートナー」という表現に改めて伝えています。昨年6月号では、名字を変えたくないから事実婚を選んだカップルや、夫が妻の姓に変えた夫婦など、多様な暮らしをする「ふうふ」の体験談と、事実婚などの手続きの方法について取り上げました。

昨年12月、同性カップルや再婚、国際結婚を起用した大型広告をJR渋谷駅に設置し、「あなたが幸せなら、それでいい。」というメッセージを発信。今年2月には渋谷区と協力し、区内で同性カップルが安心して挙式ができる式場をまとめた「LGBTQフレンドリーウエディングMAP」も完成させたといいます。
 森さん 若い世代の結婚をすすめるには多様なスタイルを選択でき、2人が納得する形であることが必要です。今後も、好きな人と始める新生活や、結婚の瞬間がよりときめくような仕掛けづくりをしていくつもりです。
■60代以降の恋愛も応援したい

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人生100年時代と言われる昨今、結婚はどのような形になっていくのでしょうか。
 森さん 結婚は若い世代だけのものではありません。最近は60代以降の恋愛の話や再婚、再々婚をしたという話をよく聞きます。でも、子どもに「その年で恥ずかしいから恋愛するのはやめて」と言われてしまうようです。恋をするとおしゃれをして活力も生まれますし、(心身の健康や幸福を意味する)ウェルビーイングにもつながります。これからは60代以降の恋愛や結婚も応援していきたいです。
 

2024年5月27日 10:00(5月27日 12:09更新)北海道新聞どうしん電子版より転載