大型連休が明けて約3週間が過ぎた。いわゆる「五月病」で体が思うように動かない、やる気が出ない日々を送る人もいるのでは。医師、大学教授らに症状や対処法を聞いた。
 
■企業や学校は配慮検討を
 道立精神保健福祉センター(札幌)によると、「五月病」とは、やる気が出ない、不安になる、食欲がない、眠れないなどの心身の不調=表=だ。
 同センターの電話相談で「こころの健康」「うつ・うつ状態」に関する件数は、2023年度は5月が181件。月別では10月(203件)、6月(199件)、7月(193件)に続く4番目だった。だが5月は、22年度217件、21年度も203件と、各年度内の月別で最も多かった。
 同センターの岡崎大介所長はこの時期の不調について①年度替わりの4月で生活環境が大きく変わる人が多い②気温の変化が著しく、身体への負荷が強まるため、「心も体もストレスを受けやすい時期」と指摘。連休で緊張が緩まり、これまでの疲労が一気に出る。さらに、つかみかけていた生活のリズムが連休で乱れ、心身の不調につながる。
 「連休明けは、体調を崩す学生は多い」と北海道臨床心理士会会長でもある、北翔大(江別)の飯田昭人教授も言う。大半は自然に回復するが、学校に行けなくなる人も出る。精神科医で公認心理師でもある田所重紀札幌医科大准教授は「講義の欠席、遅刻が増えるのがサイン」と指摘。「会社員はメールの返信が遅れたり、来なくなったりする」のが要注意だそう。
 休養し、生活のリズムを整えるのが回復への第一歩だ。「疲れている時は無理をしない。休日でも可能な限り、就寝、起床リズムを崩さないよう気を付けましょう」と岡崎所長はアドバイスする。
 心身の調子がなかなか回復しない場合はどうしたらいいのか。飯田教授は2、3週間たっても戻らない場合は学生相談室や産業医、精神科クリニックなどの専門機関を訪ねるよう助言している。岡崎所長も「何らかの病気の可能性もあるので医療機関の受診も検討してください」と言い、田所准教授は「必要に応じ、業務等の負担軽減などの配慮も検討を」と学校、企業側の配慮を求める。
 高校生や学生、市民らのカウンセリングに携わる飯田教授は「心のエネルギーが下がることはだれにでもあること」と自分を責めないようアドバイスする。
 

 道立精神保健福祉センターなどの「こころの電話相談」は電話0570・064556(平日午前9時~午後9時、土日祝日午前10時~午後4時)。
■不安の裏側探りストレス耐性に転換

二つの対処法考案 札医大・田所准教授
 札医大の田所重紀准教授は、不安症などに対する精神療法の一つ「森田療法」をベースに「思いつぶやき法」と「不安活用ワーク」を考案。五月病などの「メンタルヘルス不調」の支援に当たってきた。どのようなものか聞いた。
 思いつぶやき法は、心身を休めた後、自身の不安などのネガティブ(否定的)な感情を見つめ直す作業です。
 まず、今感じている最も大きい「不安」を書き出します。例えば「明日のプレゼンのことが心配」など具体的に自分の言葉で書くのがコツです。複数ある時は、すべて書き出し一番大きいものを選びます。
 次に、不安をより具体的な「恐れ」に変換します。「プレゼンの内容について上司からダメ出しされたくない」「同僚からプレゼンの仕方をばかにされたらどうしよう」などと書きます。
 恐れの次は、その裏にある「思い(願望・希望)」を探ります。「上司や同僚から自分の仕事を認めてもらいたい」などです。不安の裏側にある思いを書き出して目に見えるようにするだけでなく、「上司や同僚から自分の仕事を認めてもらいたいんだなあ」とつぶやきます。漠然とした不安から距離を置くことができるため、それだけで快方に向かうケースもあります。
 ここから先はこの思いをかなえるための「不安活用ワーク」になります。ただし、ある程度心身が回復した後でないと難しいです。
 ワークでは、思いをかなえるために「今できること」を書き出します。ごく小さなことで構いません。書いたことを行動に移し、その時に生じた「気持ち」をつづります。もし、不安な気持ちを自覚したら、思いつぶやき法の不安を見つめる作業に戻ります。
 不安の強い人は前に進みたいという潜在的なエネルギーも強いものです。メンタルヘルス不調を、自身のストレス耐性を高めるきっかけにつなげられたらと思います。(編集委員 稲塚寛子)

2024年5月28日 4:00北海道新聞どうしん電子版より転載