20代男性会社員で、主に外勤営業を担当しています。毎月40~50時間残業しているのに残業代が出ないので、不思議に思って上司に尋ねてみると、「営業手当に40時間分の残業代が含まれている」という説明を受けました。確かに営業手当は出ているのですが、そういうものなのでしょうか。

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【回答】就業規則などに明示必要(弁護士・今井明日香さん)
 時間外労働をした場合、会社は、法律に従って計算した割増賃金を支払わなければなりません。実際には、一定の割増賃金を固定残業代として、あらかじめ給与に組み込んで支払っていることもあります。固定残業代は、会社側にとっては人件費を把握しやすく、労働者側には残業をしなくとも一定の手当を受け取ることができ収入が安定するというメリットがあります。
 もっとも、固定残業代の名称に決まりはなく、会社によってさまざまです。本件では、「営業手当」が固定残業代として法的に認められるかどうかが焦点となります。
 一般的に、固定残業代の制度が適法であると認められるためには、まず、時間外労働の対価として法定の割増賃金の代わりに支払われていることが必要です。契約書や就業規則の定め方、給料明細の記載、実際の勤務や支払いの状況などを考慮して総合的に判断されます。
 また、通常賃金の部分と割増賃金の部分とを判別することができ、法定額の割増賃金が支払われているかどうかを確認できる必要があります。そして、実際の残業時間を基に計算した残業代が固定残業代を超える場合には、会社は超えた部分を追加して支払わなければなりません。
 相談者の場合、上司の説明通りに、営業手当は40時間分の割増賃金であることが雇用契約書や就業規則に明示されている必要があります。明示されていても、50時間の残業をした場合に営業手当に加えて割増賃金が支払われていないのであれば、固定残業代の制度として適法とは言えない可能性があります。
 なお、営業手当が固定残業代として適法ではないと判断された場合には、割増賃金を算出する際に営業手当も基礎賃金に組み込んで計算することになります。したがって、高額の未払い残業代が発生する可能性があります。


今井明日香弁護士

<略歴>いまい・あすか 1981年、神奈川県出身。子どものころ米国で暮らした経験があり、英語が堪能。学生時代に旅行した北海道が気に入り、民間企業勤務を経て2008年に北海道に移住。12年に札幌弁護士会に登録。

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2024年5月23日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載