JR北海道は、2024~26年度の中期経営計画を策定した。北海道新幹線の札幌延伸が30年度末から延期された影響で経営自立が遠のく中、今後3年間の戦略と課題を探る。(3回連載します)
■利用促進に知恵絞る
 「鵡川高校の下校時間に合わせ、JR日高線のダイヤが変わります」。今春、胆振管内むかわ町が、鵡川発苫小牧行き列車の出発時間の変更を知らせるチラシを全戸配布した。
 鵡川-苫小牧間はJR北海道が単独では維持が困難とする8区間(通称・黄色線区)の一つ。3月16日からのダイヤ改正は生徒の利用を増やそうと、むかわ町が繰り返しJRに要望して実現した。
 同町は2019年度、苫小牧市内から通う鵡川高生の登校時のスクールバス運行を取りやめる代わりに、JRの定期券の支給を始めた。23年度までに延べ270人が定期を使って通学。バスは平日のみ運行していたため、部活動で土日も通学する生徒らに好評で、下校時も利用しやすくした。
 ただ、大幅な利用増は見通せておらず、同区間は年間3億円前後の営業赤字が続く。沿線自治体とJRが昨年、住民172人に利用頻度を尋ねたアンケートでは9割が「全く使わない」と回答した。
 JRは4月に発表した24~26年度の中期経営計画で、黄色線区の抜本的な改善方策を取りまとめる方針を打ち出した。日高線鵡川―様似間は高波で不通になったまま21年に廃止された。同町の竹中喜之町長は鵡川-苫小牧間が同じ道をたどることを警戒し、利用促進に知恵を絞る。
 「廃線の流れをなんとか食い止めたい」
■目標設定、毎年度検証
 「線区ごとの利用促進とコスト削減にどこまで切り込んでいけるか、(沿線自治体などと)しっかり打ち合わせていきたい」。JR北海道の綿貫泰之社長は15日の記者会見で、単独では維持が困難とする8区間(通称・黄色線区)を巡る協議を本格化させる考えを示した。

JRは4月1日に公表した2024~26年度の中期経営計画に、黄色線区の抜本的な改善方策を「確実に取りまとめる」と明記。観光利用収入など区間ごとの特性に応じた目標を設定し、達成度合いを毎年度検証することも盛り込んだ。
 JRは19~23年度の前回計画でも抜本的な改善方策の策定を目指したが、コロナ禍で先送り。今後3年を「課題解決の最後の機会」と位置付け、退路を断った。
 JRの計画発表に続き、道は今月9日、観光や物流などの面から黄色線区の価値を分析した結果を公表した。アンケート結果などを基に、観光利用の多い富良野線、釧網線、花咲線(根室線)は全道への経済波及効果が年間計約330億円に上ると試算。石北線、根室線、室蘭線の貨物輸送をトラック輸送に切り替えた場合、年間約59億円のコスト増となり、8区間の全利用者が自動車で移動すると二酸化炭素の排出量は4倍に増えると推計した。国やJR、沿線自治体との協議に向け、持続的な鉄道網を確立する重要性を客観的に示すのが狙いだ。
 ただ、黄色線区の収支改善の道のりは険しい。22年度の営業赤字は計139億円。JRが黄色線区を含む維持困難路線を公表した16年度から約8億円増えた。人口減少による利用減や燃料費高騰で収支はさらに悪化する恐れがある。
 北海道新幹線札幌延伸が30年度末から数年単位で遅れることになり、JRは経営自立の目標時期を31年度から延期することを決めた。新幹線は札幌延伸まで年100億円前後の営業赤字が続く見通しで、JRが黄色線区に費やせる経営資源は細りかねない。
■国の支援、不透明
 沿線自治体や道が警戒する財政負担を巡る協議も避けて通れない。JRは18年当時、国と道・沿線自治体に黄色線区の赤字額を3分の1ずつ負担してもらう構想を描いていたが、反発を恐れ、具体的な議論に入れないまま時間だけが経過した。
 財源に余裕のない沿線自治体は財政負担の協議が廃線につながることを警戒しており、ある首長は「利用促進には協力するが、国が支え続けなければ大きな赤字を抱える路線は維持できない」と訴える。国はJRの経営改善状況を踏まえ、2、3年ごとに支援内容を決める方針で、運行の基盤となる長期的な支援を引き出せるかは不透明だ。
 一方、道外では「赤字=廃止」という従来の発想から脱却した鉄路がある。
 存廃問題に揺れた滋賀県東部の私鉄「近江鉄道」は今年4月から、県や沿線自治体が線路やホームなどを維持管理する「上下分離方式」での運行を始めた。近江鉄道の赤字や国、県などによる財政支出は年間計6億7千万円に達していたが、廃線にした場合、通院、通学の代替バス運行などの経費が年間計19億1千万円必要になると試算。差額を鉄道運行によるクロスセクター(分野横断)効果とみなし、存続を決めた。
 こうした分析手法に詳しい丸尾計画事務所(兵庫県)の西村和記専務は「公共交通機関は社会基盤としての役割があり、収支だけで存廃を判断してはいけない。国や自治体が支援する根拠を明確にしていくことが重要だ」と指摘する。
 中期経営計画で黄色線区の課題解決の期限を自ら定めたJR。鉄路の多面的な価値を再定義し、財政負担を含めた合意を形成できるか。先送りはもう許されない。

黄色線区の一つJR日高線の鵡川駅。むかわ町の利用促進策で高校生の利用が増えたが、廃線への懸念は根強い

2024年5月18日 22:32(5月18日 23:17更新)北海道新聞どうしん電子版より転載