兵庫県の南部、瀬戸内海に浮かぶ淡路島。関西では人気の観光地ですが、人口減少と地域経済の縮小に直面しています。

そうした中、島に移住してきた人の起業を後押しすることで、地域を盛り上げようという取り組みが動き出しています。

中心となっているのは、この島に根ざす信用金庫。必ずしも目先の融資にはこだわらないといいます。(神戸放送局記者 桐山渉)

移住先として注目の淡路島

12万人が暮らす兵庫県の淡路島。

島の人口はこの30年で4分の3まで減少し、それに伴って、企業や事業所の数も4割減っています。

一方で、明石海峡大橋と大鳴門橋という2つの橋で本州、四国と結ばれていて、神戸や大阪との行き来もしやすく、県が把握しているだけでこの5年で600人近くが新天地を求めてやってきていて、この2年間は転入超過になっています。

2020年には、東京に本社がある人材サービス大手が、本社機能の一部を淡路島に移転しました。

地元の自治体でも、移住を検討している人に宿泊費や高速道路の利用料金などを助成する制度を設けるなど、島外からの呼び込みに力を入れています。

移住者に期待する地元信金

 
移住者に期待する地元信金
淡路信用金庫本店(洲本市)

こうした移住者に熱い視線を送っているのが、島内に本店を置く金融機関としては最も古く、87年の歴史がある「淡路信用金庫」です。

信金では、移住者に特化した低金利の融資制度などを設けています。さらに、移住者ならではの視点で、地域に新しいビジネスを生み出せるのではないかと期待しています。

実際に起業を目指す人のもとに通うのは、洲本市中心部の支店で支店長を務める高田英哲さんです。地元を一緒に盛り上げたいという思いを持っている人を、長い目で支援したいと言います。

淡路信用金庫 本町支店 高田英哲支店長
「地域を盛り上げたいという思いは私たちも同じなので、少しでも空き店舗のシャッターを開けて、商売をしてもらいたいです」

起業を目指す人にアドバイス

先月中旬には、兵庫県伊丹市から去年移住し、起業を目指す今岡美咲さんのもとを訪ねました。

今岡美咲さん(左)

今岡さんはこれまで仕事や旅行でメキシコ、オーストラリアなど、およそ20か国を訪れ、行く先々で友達が増えた経験から、海外から島を訪れた人が交流する場となる飲食店を開業したいと考えています。

移住した当初、島に知り合いはいませんでしたが、多くの情報や人脈を持つ高田さんと知り合い、支えられていると言います。

今岡美咲さん
「本当に何も知らない環境で、地域の人にどれだけ受け入れてもらえるかは不安でした。金融のプロの方に相談できたり、話を聞いてもらえるのはとても助かります」

今岡さんはすでに、洲本市の商店街の空き店舗を自己資金で購入し、開店に向けてみずから改装作業などを進めています。

現時点では、信金は今岡さんに融資をしていませんが、事業が軌道に乗るよう、親身になってアドバイスします。

高田さんは、英語とスペイン語が堪能という今岡さんの特技を生かして、飲食店で外国語を学べるようにすれば地域の人も訪れるのではないかとアドバイスをしたと言います。

また、起業に役立ちそうな補助金や相談できる市役所の担当部署も紹介しました。

高田支店長
「商売をするかぎりはだめにならないように、金融以外のアドバイスや、専門家につなぐようなことも、また得意先とのビジネスマッチングなども支援したいと思います。正直、ちょっとおせっかいかもしれませんが、いろいろな支援策をご紹介し、その中で必要なものを選択していただければ。融資につながる、つながらないにかかわらず、地域で皆さんが元気にご商売していただくことが私どもにも必ず影響があるので、支援をしていく。それが信用金庫の仕事だと思っています」

地域一丸で好循環に

この信金では、直接的な融資につながらなくても、移住者による起業が増えると店舗やオフィスの整備に伴う工事や、食材の仕入れなど島内の事業者にもメリットが見込まれるとしています。

こうした波及効果をさらに大きくしようと、信金では地元の洲本市のほか、休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」の拠点を島内で運営する企業も巻き込み、地域ぐるみで移住者の起業に向けた支援を行おうとしています。

月に1回程度、定期的に集まって情報を共有し、連携を図っていて、4月中旬の打ち合わせでは起業を目指す人にアドバイスする人材をどう確保するかを話し合いました。

信金は事業計画の相談や融資を担い、洲本市は補助金の相談に乗ったり、地元での需要動向を共有したりします。さらに企業は移住者のネットワーク作りや、起業に向けてアドバイスする人材を紹介。

こうした役割分担で手厚くサポートして実績を積み重ね、地域を元気にしたいとしています。

来月には、この3者が中心となって大阪市で交流会を開き、将来的に淡路島で起業したいという人や、取り組みに加わりたいという事業者などを募りたいとしています。

高田支店長
「淡路島が元気になることによって、私どものビジネスチャンスも増える。こうした理想的なサイクルにするために、たくさん提案し、支援に全力で取り組んでいきたい」

洲本市本町の商店街

人口減少が進む中、地域経済のにぎわいを保つことは簡単ではありません。

自治体や民間企業と一丸となった移住者への起業支援は、地域経済の起爆剤となり得るのか。島の信金の取り組みに、今後も注目していきたいと思います。

(5月14日 おはよう日本「おはBiz」で放送)

 

神戸放送局記者
桐山 渉
2016年入局
青森局、山形局を経て現所属
現在、経済分野の取材を担当

 

2024年5月13日 19時07分NHK NEWS WEBより転載