風邪薬やせき止めなどの市販薬を過剰摂取するオーバードーズ(OD)が原因と疑われる救急搬送者が2023年、道内人口上位12市の消防本部で計1098人に上ったことが11日、北海道新聞の調べで分かった。10~20代の若年層が半数近くを占め、女性は全体の75%。自傷行為など現実逃避の手段として、若年女性を中心に乱用が道内に広がっている。ODは意識障害や呼吸不全を引き起こし命に関わる危険があり、早急な対策が求められる。
 北海道新聞は、札幌市消防局などの計12消防本部を対象に、23年の救急搬送に関する活動記録から、ODの疑いが含まれる事例を集計した。うち5消防本部は委託や一部事務組合方式で近隣の24町村も管轄する。

 ODは東京・歌舞伎町の若者が集う一角「トー横」などで深刻化しており、道内主要市の搬送者数が出そろうのは初めて。
 地域別では、札幌市消防局が784人で最多。旭川市消防本部(上川管内上川町、鷹栖町を含む)が80人、とかち広域消防局(帯広市など十勝管内19市町村)が65人、函館市消防本部が44人、北見地区消防組合消防本部(北見市、オホーツク管内置戸町、訓子府町)が27人で続いた。
 年代は、20代が338人で最も多く、次いで10代が164人、30代が163人、40代が158人、50代が121人の順。10歳未満も2人いた。男女別では、女性が823人。男性は275人で全体の25%にとどまった。
 小中学生や高校生を含む10~20代の女性が405人で全体の37%に及び、同世代の男性の約4倍だった。全体の7割を占める札幌市消防局によると、過剰摂取した理由は、自ら命を絶とうとする「自殺企図」や「自傷行為」が大半という。
 若年層が多い要因について、医療関係者は児童虐待や家庭内暴力が背景にあると分析。学校や家庭に居場所がなく、悩みを相談できる相手がいない若者が交流サイト(SNS)で情報を入手し、精神的苦痛から逃れるため、手を出してしまうケースが目立つという。特に女性は男性よりうつ病など気分障害にかかりやすい傾向にあり、若年女性が突出する一因とみられる。
 薬物依存に詳しい旭山病院(札幌市)の橋本省吾医師は「ODは人間関係の悩みが行き詰まった状態の表れ。違法薬物のように危険性を指摘する啓発にとどまらず、生きづらさの訴えに対する社会の理解が欠かせない」と指摘している。
 <ことば>オーバードーズ 市販薬や処方薬の過剰摂取を意味する「overdose」。頭文字を取り、ODともいわれる。「dose(ドーズ)」は、薬を服用する際の1回当たりの用量を指す。急性中毒症状による健康被害の恐れがあるほか、死亡するケースもある。近年、ドラッグストアやインターネットで市販薬を買って用量を大幅に超えて摂取し、精神的苦痛から逃れる手段にする若者が増加しており、社会問題となっている。

2024年5月11日 21:29(5月12日 8:57更新)北海道新聞どうしん電子版より転載