市販薬の瓶を手に、オーバードーズを繰り返す札幌市の少女(17)。「記憶が飛んだり、幻覚も見える。それでも苦しみから逃げたくて、やめられない」(本人提供、写真を一部加工しています)

市販薬を過剰摂取するオーバードーズ(OD)の疑いで2023年に道内の主要12消防本部に救急搬送された人のうち、10~20代の女性は37%を占め、若年女性の深刻な現状が浮き彫りになった。背景に家庭内暴力や児童虐待による心の傷があり、交流サイト(SNS)への投稿で模倣を招き、歯止めがかからない状態。政府は20歳未満を対象に販売規制を強化する方針だが、複数のドラッグストアで購入を繰り返す「はしご買い」も後を絶たない。専門家は「心のSOSを社会全体で受け止める必要がある」と訴える。
 「病んだ気持ちを忘れたい。体に良くないと分かっているけれど…」。札幌市の少女(17)はインターネットでODを知り、中学3年のころから市販薬を手放せなくなった。幼少期に父親の家庭内暴力で両親が離婚し、中学は不登校。自傷行為に及ぶと母親から見放され、高校受験のストレスも重なったという。
 ドラッグストアで風邪薬を購入し、多いときは90錠を一気に飲み込む。ろれつが回らず、せきが止まらなくなり、意識がもうろうとする。SNSに投稿し、通信アプリのビデオ通話で友人と一緒に乱用することもある。「死にたいくらいの苦しさを共有し、生きているって実感しているのかも」。高校を辞め、身近に悩みを明かせる相手はいない。
■「抜け穴」多く
 若者に浸透するSNS上では、大量の市販薬の写真とともに「死にたい」との投稿が相次ぐ。SNSによる拡散で、ODを模倣するケースも見られ、連鎖を招いている。

依存性がある成分を含む市販薬の乱用対策で、厚生労働省の検討会は昨年12月、20歳未満への複数・大容量の製品販売を禁じる制度見直し案を取りまとめた。販売は原則対面で、小容量製品1個に制限し、身分証提示による年齢確認も義務付ける。
 ただ、店舗間で購入情報を共有する仕組みがないなど「抜け穴」は多く、ODをする道内の10代少女は「店を変えれば大量に買える。家にも親が常備し、普通に手に入る」と明かす。
 対策が追いつかない一方、専門家からは、メンタルヘルス(心の健康)の問題に目を向けるべきだとの声が上がっている。
■SOSに目を
 道内の総合病院で計4回、同じ女子高校生(17)の搬送を受け入れた救急医は「ODの大半が本人による通報で搬送される。『助けてほしい』というサイン」と話す。「夜の街」で働く女性が追い詰められ、搬送されることもある。
 精神的なケアが必要にもかかわらず、専門医が不在の医療機関に運ばれ、適切な治療を受けずに再び乱用する事例も少なくない。
 道立精神保健福祉センターと札幌市精神保健福祉センターによると、道内でODを含む薬物に関する相談は23年度、少なくとも計100件で増加傾向だ。
 札幌市による若年女性の支援事業「LiNK(リンク)」を受託するさっぽろ青少年女性活動協会は、繁華街の夜回りやSNSで相談を受ける。職員の橋本彩加さん(30)は「家族から自傷行為を怒られ、不信や孤独が強まり、つらい気持ちを忘れるためにODを繰り返す。ODの背景にある悩みに寄り添う人の存在が欠かせない」と話す。

国立精神・神経医療研究センター(東京)の嶋根卓也心理社会研究室長は、ドラッグストアの薬剤師らが、自傷行為の兆候に気付いて相談に乗る「ゲートキーパー」を担うべきだと強調。「薬剤師らから病院や自助会、相談機関につなぐ体制をつくり、学校での市販薬乱用に関する予防教育も重要視しなければならない」と指摘している。
2024年5月12日 0:05北海道新聞どうしん電子版より転載