足が痛くて歩けない、足の傷口の治りが悪い…。こうした症状があると、下肢閉塞(へいそく)性動脈硬化症の可能性がある。足の血流が悪くなることで起こる病気で、症状があって放置していると、足が壊死(えし)し、切断を余儀なくされる怖い病気だ。そうした不幸な状況を可能な限り防ごうと、市立札幌病院(札幌市中央区)は複数の診療科が連携して足の血流を回復させるユニークな取り組みを行っている。
■診療科またぎ血流回復へ治療
 下肢閉塞性動脈硬化症は、下肢の末梢(まっしょう)血管の動脈硬化が原因だ。年齢的な要因に加え、糖尿病の進行や人工透析などで起こることが多い。初期段階は間欠性跛行(はこう)(少し歩くと、足が痛くなったり、しびれたりして歩けなくなるが、少し休むと歩けるようになる)の症状が出る。進行すると安静時でも足が痛くなったり、足に潰瘍ができ、重症虚血肢となる。これを放置すると1年ほどで2割以上の人が下肢切断となる。
 一般には循環器内科医が勤務する医療機関で治療するケースが多いが、市立札幌病院は形成外科、循環器内科、心臓血管外科が連携し、2017年に「下肢救済センター」を開設し、多職種の医療従事者が協力し、患者の足切断を防ぐ取り組みを行っている。
 日本形成外科学会の専門医で、日本フットケア・足病医学会の足病治療認定師でもある下肢救済センター長の堀内勝己医師は「他の病院からの紹介も含め、足の血管の疾患を抱える患者が増えたことからセンターを開設した。複数の外科、内科が合同で患者の治療方針を検討するのは珍しい」と話す。
 足の血流回復は心臓などと同様に、動脈に細い管を入れるカテーテル治療がまず行われる。日本心血管インターベンション治療学会認定医で、同センターの鈴木理穂医師(循環器内科)は「先端に風船のついた直径2ミリほどの細い管を動脈に入れ、狭くなった部分で膨らませ、血流を回復させる。膝より上では金属製のステントを入れることもある。腸骨(骨盤の左右に張り出ている大きな骨)動脈や大腿(だいたい)動脈などの大きい血管では、9割の患者が1年後も血流を回復した状態が続く」と指摘する。
 カテーテル治療で手に負えないケースや、ステントを使えない下肢は、形成外科と心臓血管外科が患者本人の静脈を用いたバイパス手術を行う。
 補助的療法も取り入れられている。鈴木医師は「重症虚血肢の患者は毛細血管レベルの小血管の血流も落ちている。これはカテーテルや手術では対応できないので、高圧酸素療法やLDLアフェレーシスを行っている」と話す。
 このうち高圧酸素療法は高圧下で100%酸素を吸入し、全身に酸素を供給する治療だ。100%酸素を吸うと、ヘモグロビンはほぼ100%酸素と結び付き、血液に酸素が溶け込むことで、体の末端に酸素が運ばれ、体の状態を回復させる。LDLアフェレーシスは、悪玉コレステロールとして知られているLDLを、人工透析のように血液を体外に循環させて除去し、血流の状態を改善させる。
 閉塞性動脈硬化症は喫煙や高血圧、脂質異常症が危険因子。市立病院では年間約50人が下肢切断を余儀なくされ、切断された人の1年生存率は50%だ。
 堀内医師は「下肢治療は早期発見が第一。例えば心疾患で循環器科を受診していても、足の痛みは関係ないと思い、訴えない人も多い。足が冷たいなどの症状があったら、すぐに医師に相談してほしい」と話している。

カテーテル治療で血流を回復した足のエックス線写真(市立札幌病院提供)

血流を回復する治療を行う前の足のエックス線写真(市立札幌病院提供)

化膿した足の親指(左)。カテーテルとバイパス治療で、2カ月後には元の状態(右)に戻った(市立札幌病院提供)

2024年5月8日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載