法務省は今月、精神障害のある受刑者の社会復帰を支援するモデル事業を札幌刑務所(札幌市東区)で始める。刑務所の一部を改修して専用施設を整備した。精神障害を理由に刑事責任を問われなかった人を治療する道内唯一の施設「北大病院付属司法精神医療センター」(同市東区)や福祉関係者が支援に携わる全国初の取り組みだ。出所後に社会に適応できる生活リズムを整えることで、再犯防止につなげる狙いがある。

 自己啓発書が並ぶ図書室、ギターやキーボードのある音楽室。札幌刑務所のモデル事業の施設は、6人部屋などを改装し、受刑者がさまざまな体験ができる部屋に変わった。パソコンルームのほか、栄養や調理法を学ぶスペースを確保し、フィットネスバイクも設置した。

 平日の午前と午後に2時間ずつ、刑務作業の代わりに機能向上作業に取り組む。刑務所の担当者は「基本的な動作や知識が不足している受刑者は多い。ここでは自身の精神障害について学んだり、手先を動かすリハビリ訓練をしたりして地域社会に戻れる下地をつくりたい」と話す。

 事業の対象は刑期の残りが1年以上ある受刑者。本年度中に約20人が入所する予定で、今月中旬ごろの開始を見込む。

 法務省によると、2022年の全国の新規受刑者のうち、精神障害者(知的を含む)は17%を占める。入所回数が2回以上の受刑者は66・9%で、診断を受けていない受刑者の54・5%と比べて高い水準という。

 これまでの矯正施設では、個々の受刑者の出所後の生活を見据えた支援は不足していた。このため、法務省は札幌刑務所で全国に先駆けた事業に取り組む。

 札幌刑務所が選ばれたのは、22年に開設した医療観察法指定入院医療機関の北大病院付属司法精神医療センターが隣接していることが理由の一つだ。

 同センターの賀古(かこ)勇輝センター長は「医療と矯正が連携する全国でも期待を集める取り組み。一つのチャンスと考え取り組みたい」と意気込む。受刑者の支援には精神科医や作業療法士など約10人が携わる。

 札幌刑務所の遊佐篤史所長は「初めてのことで不安はあるが、多くの皆さんの理解と支援で力強く、一歩を踏み出したい」としている。サイドバーでクエリ検索

札幌刑務所の6人部屋を改装し、精神障害のある受刑者がパソコン操作を学ぶ一室

2024年5月6日 18:02(5月7日 7:48更新)北海道新聞どうしん電子版より転載