サイドバーでクエリ検索新型森隆幸さん(右)と一緒に面会に訪れたひ孫の手をさする和子さん=4月22日、特別養護老人ホーム「厚別栄和荘」(金田淳撮影)

コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行してから8日で1年となる。道内の特別養護老人ホームでは、入所者と家族らの面会の時間制限などを緩和する動きがある一方で、クラスターへの懸念が強く踏み切れない施設も。介護現場では葛藤が続いている。
 「元気だったかい。体調はどう」
 札幌市厚別区の特定社会保険労務士、森隆幸さん(67)は4月、東京で暮らす長女らと一緒に、特別養護老人ホーム厚別栄和荘(同区)に入所する母和子さん(97)を訪ねた。和子さんは2歳のひ孫を見ると感極まったように目をつむり「かわいい、かわいいねえ」と何度も手をさすった。
 森さんが訪れるのは週1回ほどで、面会時間は15分。「少しでも顔を見れば安心するし、今日はひ孫と会って心が和んだようだ」と顔をほころばせた。
 同施設での面会は現在、予約制で訪問者は3人まで。マスクを着用して手指消毒し、検温と健康チェックを受ける。居室には入れず、食堂近くに椅子を用意する。飲食はできない。以前は会議室などでアクリル板越しの面会だったが、5類移行時に変えた。
 移行から1年になることを踏まえ、今月7日からは時間を30分に延ばし、予約不要で居室にも入れるようにする。家族などから面会時間の延長など緩和を望む声があったという。
 家族と面会すると、普段よりたくさん話したり、認知症の進行を遅らせられたりと心身への影響が大きい。一方、クラスターへの懸念は今も根強い。入所者が感染すると、感染拡大を防ぐため、施設内のゾーン分けや防護衣と高性能マスクの着用が必要になり、職員の負担は大きい。特に夜間は職員が少なく、防護衣の速やかな脱ぎ着を求められることもある。衛生用品の購入など感染対応への国の補助も3月末で終了し、経営への負担も懸念される。
 瀬戸雅嗣施設長は「面会の制限緩和は感染対策とバランスを取りながら考えていかざるを得ない」と話す。施設で亡くなる「みとり」時は制限していない。
 道内の施設では、多くが面会時間をおおむね15分としている。15分以上、近くにいることが濃厚接触と判断する目安だったことが理由とみられる。
 上川管内鷹栖町で鷹栖さつき苑とぬくもりの家えんを運営する社会福祉法人さつき会も現在、面会は15分。人数制限はない。多床室には入れず面会室を使う。ただ、秋ごろには訪問者のマスク着用と消毒以外の制限をなくしたい考えだ。
 両施設では今月1日、食事や通院介助、近くに風邪症状のある人がいる場合などを除き入所者と職員のマスクの着用義務を解除した。認知や言語機能が低下した人とのコミュニケーションが難しく、熱中症の恐れもあるためという。
 波潟幸敏常務理事は、最近は新型コロナに感染しても重症化せず入院に至らない傾向があると指摘。「クラスターのリスクや発生頻度が低くなってきたことを考えると、日常の暮らしの質を高める方が重要だと、嘱託医や管理職らと話し合って判断した」と話す。
 一方でクラスターのリスクは、入所者の健康状態や介護人材の充足度など地域によっても異なり、警戒感を強く抱く施設もある。
 十勝管内幕別町の札内寮は、面会は会議室などを使い、1メートル空けて20分としている。成田啓介施設長は「制限を緩和したい気持ちはあるが、コロナが消えたわけではない。もどかしい」と打ち明ける。
 昨年、施設内に複数回、感染が広がった。感染後、体が弱り、入院して戻って来られない入所者は少なくなかった。慢性的な人手不足で職員も疲弊している。それでも可能な範囲で緩和をと、隣接する個室のみの小規模特養ふらっと札内で、居室面会の再開を検討している。
 面会については、厚生労働省が2021年11月に「留意点」を示している。地域の感染者の発生状況を踏まえ「可能な限り安全な実施方法を検討すること」とし、管理者が具体的な時間や回数、場所を判断。面会者に感染が疑われる症状がある場合は断ること、人数は必要最小限とし、入所者と一定の距離を確保すること、十分に換気すること、面会後は机、椅子、ドアノブなどは消毒することなどを挙げている。
■生活の質「社会で議論を」 北海道医療大・塚本教授
 感染のリスクと面会についてどう考えるべきか、北海道医療大の塚本容子教授(感染管理学)に聞いた。

 新型コロナウイルスと季節性インフルエンザとの比較は難しいですが、亡くなる人は新型コロナの方が多い印象です。感染症のリスクはあまりにも個人差が大きく、単純には年齢で推し量れません。認知機能低下や摂食・嚥下(えんげ)障害などの老年症候群の人は重症化リスクが高いと考えられます。
 一概に、この状況なら感染する、しないと考えることは危険です。入所者や施設ごとにリスクは異なるため、それらを考慮して面会方法を考える必要があります。施設として何を大切にするのか、入所者の家族らの理解と協力を得られるよう、十分なコミュニケーションが必要です。
 クラスターが起きた施設はたたかれましたが、高齢者が会いたい人に会えず、外出もできずに亡くなる現状に疑問を感じています。高齢者の健康と生活の質をどう考えるかは、コロナ禍だけの問題ではなく、社会として真剣に議論すべきです。

2024年5月6日 5:00北海道新聞どうしん電子版より転載