私が町長を務める釧路管内白糠町は、道内の他の自治体と同様に、10年前にも増田寛也氏らでつくる「日本創成会議」に「消滅する可能性がある」と指摘された。日々、人口減少を肌で感じながら、まちづくりに取り組んでいる道内の首長の一人として、「このままでは消滅する」と言われることには、率直に憤りを覚える。
 今回分析を公表した民間組織「人口戦略会議」は、どこに向けてメッセージを出しているのだろうか。国は(外国に)「小麦を買え」と言われて(国内の)田んぼをつぶしてきた。地方の1次産業を疲弊させておきながら、人口減少を自治体のせいにするなら納得できない。
 国は10年前、日本創成会議の分析を受け、「地方創生」を打ち出し、地方の子育て環境の充実や移住促進政策に補助金を付けた。どこの自治体も似たような施策を打ち出し、互いに住民を奪い合う構図を生み出しただけで、根本的な解決にはなっていない。
 白糠町では、保育料や18歳までの医療費無償化のほか、移住・定住対策として町有地の無償譲渡などを進めている。特に2017年度に始めた町有地の無償譲渡では、23年度までに34世帯、90人以上が町内に住居を構えた。
 しかし、どんなに子育て世代への支援を充実させても、子どもたちは進学時に都会に出てしまい、戻ってこない。町長に就任した約30年前、町民から「若者が出て行くのは地元に働く場所がないから」と言われたが、今、町内の事業者は「働き手がいない」と言い、外国人技能実習生らに頼っているのが実情だ。
 若い世代に地方に残ってもらい、人口を維持して地域の消滅を止めたいのなら、北海道では1次産業を再興するのが最も着実だ。
 道内各地方の特色を生かした農林水産業が再び盛んになって仕事が生まれれば、一度地域を離れた若者は戻ってくる。所得が向上して家計に余裕ができ、子どもを持とうと意識が変わる。食料を加工する2次産業も地方進出を再検討するという好循環が生まれるのではないだろうか。
 厚生労働省が4月19日に発表した統計では、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数である合計特殊出生率は、18~22年の5年間の道内平均1.21に対し、後志管内共和町が1.70で最も高く、根室管内別海町が1.64、宗谷管内猿払村とオホーツク管内佐呂間町が1.62と続く。いずれも1次産業が盛んな市町村が上位を占めている。
 現在、全国の農林水産業の就業者割合は5%に満たない。この産業構造を変えるくらいの本気度で、1次産業の活性化に取り組んでほしい。
 自分の住むマチが消えて喜ぶ人はいない。道内の地方のマチはこの10年間、死にものぐるいでそれぞれ人口減少対策に取り組んできたが、首都圏一極集中などを要因とする人口減少問題は全国的な課題だ。「消滅する」と名指しされた自治体の努力で解決できる次元ではない。
 国は、10年前の日本創成会議の分析を受けて着手した対策が正しかったのか、検証してほしい。国民や地方自治体が本当は何をすべきなのか、国家の威信をかけて示してもらいたい。(聞き手・金子文太郎)

たなの・たかお 1949年、釧路管内白糠村(当時)生まれ。白糠高、道自動車短大卒業後、自動車販売店勤務を経て家業の燃料店を継ぐ。1983年から町議を務め、96年に町長に初当選し現在7期目。2015年から北海道町村会会長を務めている。

2024年5月2日 20:39(5月2日 20:43更新)北海道新聞どうしん電子版より転載