現役世代が支える構造は、肩車どころか、もはや「重量挙げ」と言える。
 重量挙げ社会の様相は地方と東京で異なる。地方は若者の転出圧力が強く、高齢世代以上に現役世代が減少する。特に女性にとって、ずっと勤めたいと思える正規雇用の仕事が地方には十分にないためだ。
 一方、若者が向かう東京は育児にお金がかかり家賃も高い。仕事はあるが、通勤時間が長いなど子育てとの両立は困難で、女性が出産を機に非正規雇用に転じる「L字カーブ」現象も顕著だ。出生率は全国で一番低く、地方から人をのみ込むけれど生まれる赤ちゃんは少ない「ブラックホール」になっている。
 岸田文雄政権の「異次元の少子化対策」は子育て世帯への現金給付が柱だ。子どものいる世帯の所得は全世帯平均の1・4倍だが、「生活が苦しい」と答える世帯の割合も全世代平均より高い。だから子育て世帯支援も必要だが、さらに重要なのは結婚もできない若い世代の経済支援だ。若い世代が安定して働き、結婚し、子どもを産める経済的条件が整っていないことこそが少子化の根本的な要因と言える。
 若い世代の所得を増やす手段として、政府はリスキリング(学び直し)を掲げている。だが新事業を展開できる会社にリスキリングの補助金を出しているのが実態で、非正規雇用の若者への支援になるかは疑問だ。
 日本では長年、男性が安定的な職に就き、社会保険にも守られて妻子を養うというのが生活保障の考え方だった。社会保険には税金も投入されている。
 ところが今は、給与所得が少なく社会保険の恩恵も十分ではないのに、生活保護などの福祉給付は条件が厳しくて受けられない人が急増している。非正規労働者や1人親世帯などいわば「新しい生活困難層」だ。この層に届く政策がなければ、少子化対策の効果は上がらない。
 賃上げや住宅手当支給などの支援と併せて、働き方改革もポイントになる。
 新しい生活困難層には、自身の健康問題や家族の介護などを抱え、就労に制約がある人がいる。例えば大阪府豊中市では、人手不足で採用に困っている企業から独自に求人票を集め、働き手の個性や事情に合わせて「午後だけ働ける」「対人関係が苦手なので包装業務だけ」といった柔軟な雇用を実現している。こうした取り組みは、人手不足解消にも少子化対策にも大きな効果がある。
<略歴>みやもと・たろう 東京都生まれ。中央大大学院法学研究科修了。北大大学院教授などを経て2013年から現職。北大名誉教授。著書に「共生保障―〈支え合い〉の戦略」(岩波新書)など。

現役世代が支える構造は、肩車どころか、もはや「重量挙げ」と言える。

 重量挙げ社会の様相は地方と東京で異なる。地方は若者の転出圧力が強く、高齢世代以上に現役世代が減少する。特に女性にとって、ずっと勤めたいと思える正規雇用の仕事が地方には十分にないためだ。

 一方、若者が向かう東京は育児にお金がかかり家賃も高い。仕事はあるが、通勤時間が長いなど子育てとの両立は困難で、女性が出産を機に非正規雇用に転じる「L字カーブ」現象も顕著だ。出生率は全国で一番低く、地方から人をのみ込むけれど生まれる赤ちゃんは少ない「ブラックホール」になっている。

 岸田文雄政権の「異次元の少子化対策」は子育て世帯への現金給付が柱だ。子どものいる世帯の所得は全世帯平均の1・4倍だが、「生活が苦しい」と答える世帯の割合も全世代平均より高い。だから子育て世帯支援も必要だが、さらに重要なのは結婚もできない若い世代の経済支援だ。若い世代が安定して働き、結婚し、子どもを産める経済的条件が整っていないことこそが少子化の根本的な要因と言える。

 若い世代の所得を増やす手段として、政府はリスキリング(学び直し)を掲げている。だが新事業を展開できる会社にリスキリングの補助金を出しているのが実態で、非正規雇用の若者への支援になるかは疑問だ。

 日本では長年、男性が安定的な職に就き、社会保険にも守られて妻子を養うというのが生活保障の考え方だった。社会保険には税金も投入されている。

 ところが今は、給与所得が少なく社会保険の恩恵も十分ではないのに、生活保護などの福祉給付は条件が厳しくて受けられない人が急増している。非正規労働者や1人親世帯などいわば「新しい生活困難層」だ。この層に届く政策がなければ、少子化対策の効果は上がらない。

 賃上げや住宅手当支給などの支援と併せて、働き方改革もポイントになる。

 新しい生活困難層には、自身の健康問題や家族の介護などを抱え、就労に制約がある人がいる。例えば大阪府豊中市では、人手不足で採用に困っている企業から独自に求人票を集め、働き手の個性や事情に合わせて「午後だけ働ける」「対人関係が苦手なので包装業務だけ」といった柔軟な雇用を実現している。こうした取り組みは、人手不足解消にも少子化対策にも大きな効果がある。
<略歴>みやもと・たろう 東京都生まれ。中央大大学院法学研究科修了。北大大学院教授などを経て2013年から現職。北大名誉教授。著書に「共生保障―〈支え合い〉の戦略」(岩波新書)など。

中央大学の宮本太郎教授=2024年4月17日午後5時5分、文京区の中央大学茗荷谷キャンパス、玉田順一撮影
 日本の高齢人口は2040年ごろに3900万人を超え、現役世代1人が高齢者1人を支える「肩車社会」に近づくと言われている。ただ、「肩車」という例えも楽観的かもしれない。
 就職氷河期に安定した雇用に就けなかった世代が高齢化し、1人暮らし世帯も増加

2024年5月2日 0:00(5月2日 1:59更新)北海道新聞どうしん電子版より