ひきこもりの人や家族の支援のため、厚生労働省が自治体向けに初めて策定する指針の骨子が29日、分かった。ひきこもりは生活困窮やいじめ、リストラといった問題から身を守ろうとして、誰にでも起こり得る社会全体の課題だと指摘。「人としての尊厳」を守り、本人の視点に立った対応を求めている。支援のポイントを盛り込み、2024年度中に完成させた上で、全国の相談窓口で活用してもらう。
 近年、長期のひきこもりによって80代の親と50代の子が孤立する「8050問題」が深刻化。家族が自治体に相談しても無理解や偏見から窓口をたらい回しにされたり、子育てを責められたりして支援が途絶えるケースが少なくない。
 一部の自治体では、厚労省研究班が10年に作成した精神疾患や早期受診に関するガイドラインを用いているが、より実態に即した統一的な指針が必要と判断した。
 骨子は、当事者団体、家族会、福祉や医療関係者、有識者からなる検討会がまとめた。全市区町村へのアンケートで寄せられた支援の実例や意見も踏まえた。
 指針の名称は「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤」。対象は「何らかの生きづらさを抱え、他者との交流が限定的」「生活上の困難を感じ、支援を必要とする状態」の人や家族とした。ひきこもり期間は問わない。また支援者自身も思うような成果が出ずに悩むことがあり、ケアの対象に加えた。
 ひきこもりは甘えだとして、自立を強いるような風潮に対し「人として尊厳ある存在」と強調。就労などを一方的に押しつけず「本人の意思を尊重し、自律の力を中心に置いた支援が求められる」とした。
 さらに状況がなかなか変わらなくても、家族には本人の苦しい思いを丁寧に伝え、「なぜ動き出せないのか」を考えてもらうチャンスにするべきだと指摘。本人と家族の考えは異なるとした上で、家族全体への適切な支援が重要だとした。
 厚労省は今後、相談からの流れ、アウトリーチ(訪問支援)、他機関との連携など具体的なポイントを盛り込み、指針を完成させる。
 ひきこもり 2023年3月に公表された内閣府調査によると、全国の15~64歳のうち、ひきこもり状態にある人は推計146万人。15~39歳の63%は就労経験があり、職場の人間関係などが原因とみられる。また40~64歳の半数超は女性。これまで家事手伝いなどに位置付けられてきた人の存在が明らかになり、多様な支援が求められている。国は都道府県と政令市に相談窓口「ひきこもり地域支援センター」を設置。22年度から市区町村への拡大を進めている。

2024年4月29日 21:16北海道新聞どうしん電子版より転載